~ 6 ~
レイヴァンたちが夜を明かすため陣取ったのは山林の崖下に出来た洞穴だった。
そこは奥に深い穴では無かったが、巧い具合に曲線に掘れていて奥まで行けば月明かりや風を気にせずに済み、背を崖に預けることで背後からの襲撃も防ぐことができる場所だった。
絶好の立地条件だったが、一行はその状況を手放しで喜ぶようなことはしなかった。
日中に散々襲われた山中での休息なのだ。
携帯食料を簡単な調理で食した彼らは一斉に眠ることを避け、起こした焚き火の守り役を兼ねて時間ごとに見張りを立てた。
と言っても割り振りは実に単純なものだ。
食事の終わり掛けにレイヴァンがブライトに「頃合いを見計らって起こすから、さっさと寝ろ」と声をかけた。
その一言によって日が昇る直前まではレイヴァン自身が、そしてその後はブライトが見張りをすることが決まった。
仮眠を取るために洞穴へと入る皆を見届けたレイヴァンは焚き火に新しい薪を焼べてから、その場を離れた。
彼が移動した先は崖の上が見渡せる位置。
立ったまま背の高い木に背中を預けると腕を組み、じっと先を見据えた。
この状況で唯一警戒しないといけないのは崖の上。
周りの木より高い崖から飛び降りられる人間はそうはない。
だが翼を持つ悪魔には可能性がある。
入り口付近に居ては上からの奇襲に対処できない。
しかし、ここなら全てを視界に捉えることができる。
洞穴まで距離はあるが光速の移動術があるため問題にはならない。
レイヴァンは意識を集中し気を配る。
風にそよぐ草木や虫の音以外に不審な音は無く、見渡す範囲に異様な動きをみせる気配も無い。
禍々しい力は微塵も感じられなかった。
今夜は何も起きないかもしれない。
彼は一つ息を吐くと空を見上げた。
木々の葉の合間から数多の星が見える。
日が落ちてから時間の経った林は気温が下がり、ひんやりとした空気が妙に心地良かった。
何事も無ければ、それに越したことはない。
だが、どこかで何かが起こるのを期待している自分がいる。
間違っていると解っていて望むなど……