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「念のため周囲を警戒しておけとレイに言われた時は、こんな田舎でと疑ったのだけれど、まさか本当に起きるなんて驚きだわ。 しかもそれが賊の類ではなく筋肉単純バカのお出ましとは…… レイは端からこの事を予見していたのかしら」
聞き慣れた女性の声に安堵の声を漏らしたブライトだが、対する相手は冷ややかな口調で「取り敢えず、喉元に穴を開けられて血を垂れ流しながら呼吸するのと、後頭部に穴を開けられて砂を刷り込まれるなら、どちらがお好みかしら?」と続けた。
その一言で相手の機嫌が悪い事に気がついた彼は、安堵している場合ではなく、むしろ悪魔と遭遇した時よりも窮地に陥っていると察した。
「ど、どちらも、俺の好みではないかな…… なんて」と恐る恐る声を上げると「両方同時に味わいたいのね。 解ったわ」と即答される。
「い、いえ、ですから、どちらも勘弁していただきたいなと」
「遠慮なんかしなくて良いのよ。 そうだ、折角の機会だから両目も刳り抜いてあげましょうか。 あなたって女性に抜いてもらう行為が大好きでしょう?」
「目玉を抜かれるのは、ちょっと……」
答える度に相手の口調は凄みを増し、とても冗談には聞こえない。
そこでようやくブライトは相手が心底憤怒していると認識し、今は言い逃れなどせず、ただひたすらに許しを乞うべき状況なのだと理解した。
彼は「フィーネ様!」と敬称をつけて名を叫ぶと、自ら額を地面に擦り付けて謝罪の言葉を述べた。




