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ノアの一言を無視したブライトは一つ深い呼吸を済ませると一気に移動を始め、今度は一切雑音を立てる事なく目標の木に辿り着いた。
後はこの木を登るだけ。
周囲を確認し問題がないと判断すると、待機している少年に向かって手を招く。
だが、彼は土壇場で怖じ気付いたのか何とも複雑な表情をしたまま動こうとしなかった。
それならば自分だけでも目的を達成せねばなるまいと鼻息荒く木を登ろうとしたが、その時頭上で木の葉が大きく騒めいた。
何かが起きたことは分かった。
だが、それが何であるかを認識する時間が無かった。
気が付いた時には突っ伏す形で顔面から地面に叩きつけられていた。
うつ伏せに倒れ込み、額に痛みと鼻先で土の匂いを感じていたブライトは身体を起こそうとしたが、左腕を捻り上げられ、後頭部と背中を押さえつけられて立ち上がることが出来なかった。
並みの男たちより身体が大きく、力もあるはずなのに何故動かないのかと不思議がる彼は極めて単純な思考で相手は自分より力と重量のある悪魔なのだと推察した。
泉に来ただけで、とんでもない事になってしまったと冷や汗を浮かべる彼だったが、その予想は相手の声によって簡単に覆される結果となった。




