~ 66 ~
ブライトが慎重に木から顔を出すと、草木の先に揺らめく光が見える。
独特な臭いを持つ湯気が辺りを覆っているため視界が悪く明瞭に認識できた訳ではないが、恐らく篝火だと思われた。
手前には並べられた岩、その奥には木の板と縄で垣根が設けられており泉はその先だと容易に想像が出来た。
その光景に彼からは笑みが溢れる。
「怪しまれないように遠回りしたが、ようやくたどり着いたか」
思わず呟くと、隣にいた少年ノアが「本当にどうなっても知りませんよ」と嘆いた。
「そんなこと言いながら、ここまで付いてきたってことは、本当はお前さんも興味があるってことだろ?」
「な、な、何を言っているのですか! 僕は純粋にブライトさんを止めようと!」
「照れるな、照れるな。 それでこそ男ってもんよ。 ここからはマジで失敗は許されないからな。 集中していくぞ。 目標は、あの垣根の近くに生えている大きな木だ。 枝も丈夫そうだし、葉も多いから身を隠すにはもってこいだ。 あの木に登れば、その先にあるのが楽園だ。 先ず俺が木の根元まで行く。 そこで周囲の安全を確認してからお前さんを呼ぶ。 いいか、ここからは絶対に音を立てるなよ」
ブライトが真剣な表情でノアを見据えると、彼は気圧されたのか無言で首を縦に振った。
「よし、行くぞ」
邪な目的を達成するためブライトが一歩踏み出すと、その瞬間足下で何かがポキリと音を発する。
小さくても妙に響く音に二人はギクリとして動きを止めると、ぎこちない様子でゆっくりと顔を見合わせた。
「いきなり小枝踏んじゃったみたいなんだけど…… 大丈夫だよな? 今のは大した音ではないよな?」
「そ、そうですね…… 至極自然的な音だったかと。 ……どうしたんです、ブライトさん、顔が引きつっているように見えますけど?」
「ば、馬鹿野郎! これは今から起こることに胸が踊っている顔だっての! 余計な事は言わなくても良いから、今度こそ音を立てるなよ!」
「今音を立てたのは間違いなくブライトさんですけどね」




