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会話が一瞬途切れるとフィーネはレイヴァンの腕を取って寄りかかり、あからさまに胸を押し付けながら「今夜、慰めてあげましょうか?」と悪戯な表現を浮かべた。
「断る」
「寂しいから慰めて欲しいって顔をしているわよ?」
「大きな勘違いだ」
「それは残念ね。 ところで、まさかそこまで重い話と思っていなかったから少しだけ罪悪感が芽生えたのだけれど、この気持ちはどうしたら良いのかしら?」
「それならば、出発してから片時も絶えることなく背後から突きつけられているこの怒気を何とかしてくれ」
レイヴァンがフィーネの腕を振り解き背後へ視線を送ると、彼女はつられて振り返る。
そしてすぐに愉快そうな笑みを浮かべた。
「これほどまでに馬鹿正直に怒りをぶつけてくるなんて可愛いわよね。 それとは真逆の感情や強い関心なんかもあるし、流石はレイと言ったところかしら」
「子供に好かれたいと思ったことは一度もないのにな」
「黙らせれば良いのかしら?」
「あんたがそう言うと大きな語弊が生まれるから止めてくれ」
二人の視線の先にいたのは三人の少女たち。
彼女らもノアと同じく精霊術学校に通う学生たちで、卒業するための試験に挑んでいた。
最も今の彼女らはノアとレイヴァンたちの行動を監視することを目的としている。
「精霊の泉があると言う村に着くまで会話でもして気を紛らわせてくれれば、それで構わない」
「悪いけど、そう言うことはマリアンにでも頼んでもらえるかしら。 私、子供相手に会話をするのって嫌いなのよね」
「先日の街では若い鑑定士を相手によろしくやっていたと聞いているが?」
「マルコは子供じゃないわ。 それに若い男が相手だったら言われるまでもなく率先して絡んでいるわよ。 でも、今そこに居るのは尻の青そうな小娘たちなのよ? 今夜あなたが私の相手をしてくれるとか余程の見返りが無ければ御免だわ」
「どう転んでも俺はあんたの相手をすることになるのか? こじつけにも程があるぞ」
「私ってこう見えて男受けが凄く良いのよ。 決して悪い話では無いと思うのだけれど、レイにとっては何が不満なのかしら?」
「あんたの美しさは百も承知さ。 毎日十分に楽しませてもらっている。 強いて不満を上げるとするなら…… そうだな、女性としての恥じらいが欠如しているところだろうか」
「……酷い言われようね」
「前半で最大級に褒めたつもりなのだが」
「その前半で止めておけば良いでしょうに」
「俺は気の利かない男でね」
レイヴァンが軽い笑みを浮かべながらフィーネとの距離を取ろうとすると、彼女は今までとは打って変わって真剣味のある落ち着いた口調で彼を呼び止める。
「リノって子の行動には注意すべきよ。 あなたのことが相当嫌いみたいだから、どさくさに紛れて何か仕掛けてくるかも」
「そこまで恨まれる事をしたつもりは無いのだがな……」




