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顔を上げて見ればアーシェとシンディと手招きをしている。
どうかしたのかと近づくと、アーシェが「作戦会議だ」と答えた。
「……作戦会議?」
いったい何のことだろうかと首を捻ると、一つ息を吐いたシンディが「ノアさんが今後どのように行動するか話すだけです。 アーシェは仰々しく言い過ぎですよ」と答えた。
兄の行動予定ならば聞いておいた方が良さそうだ。
「どうするの?」と視線を送ると、彼は持っていた木の枝を使い地面に簡易的な地図を描きながら答える。
「と、取り敢えず、今日は国境の炭鉱を目指すつもりです。 この辺りがラヴァワームの出現率が高いからです。 試験の期日まで残り三日なので移動距離を考えると、なるべく迂回せず林道を真っ直ぐ北上するのが一番早いかなと考えています」
「その経路は少し前にトロールが目撃されたって情報があった道よ。 通るのは危険だわ」
「そうだけど、既に討伐したって情報も入っているから大丈夫だと思う」
「そんな情報、正しいか分からないじゃない! お兄ちゃんはトロールが何匹居て、ギルドが何匹封印したのか知っているの?」
「それは分からないけど……」
「ギルドはね、まだ全数討伐したとは言い切れないから引き続き警戒するようにって言っているの! だから、この道は使っちゃ駄目!」
「どうしてそんな情報をリノが知っているんだよ」
「そんなの出発前にギルドに行ったからに決まっているじゃない! 試験で精霊の泉に行くと決めていたから、この地方の情報は全部調べておいたの。 街を出るなら当然のことよ! お兄ちゃんは、ちゃんと情報を集めたの!?」
「……いいえ」
兄とはいえ、相手を論破すると妙に気分が良い。
項垂れる相手を前に勝ち誇り、仁王立ちしているとアーシェが声をかけてきた。
「だったら、どの道を使うのが良いんだ?」
「それは……」
そこまで言って慌てて口を噤む。
「そんなこと知らないわ! お兄ちゃんが決めることよ!」
「あらあら、だったら、この道が危険だなんて言わなければ良いのに。 リノさんは本当にツンデレさんですね」
「だ、だれがツンデレなのよ! 私がいったい何時デレたっていうの? 全然デレてないでしょう! 変なこと言わないで!」
「ごめんなさい」
謝罪の言葉を述べるものの明らかに笑いを堪えているシンディの様子に憤慨しながら、リノは再び兄を見据えた。




