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マリアンを見つめていたリノは、その視線を少し右奥へと移した。
そこには自分と同じように食事を取る面々の輪から離れ、岩の上に腰を下ろす女性がいた。
脚を組み頬杖をつきながら様子を眺めている彼女はフィーネと名乗った。
癖のある黒髪に整った顔立ちと均整のとれた体型は羨む感情を通り越し怒りを覚える程に美しい。
容姿端麗の彼女は修道女に負けず劣らず奇抜な格好をしていた。
その最たるものが露出度の高い服装で、胸元や腹部を露わにした格好はどう見ても男たちが好むいかがわしい店に出入りする女の格好であり、とても旅人の姿とは思えない。
もしや男二人の慰み者として強制的にあの様な格好をさせられ連れ回されているのだろうかと考えたが、自分の意見を伝えるところを見ているし二本の剣を携えていることから自由を奪われたり虐げられている訳ではなさそうだ。
そうなると、彼女は自分の意思で下賎な格好をしていることになる。
何を考えているのかまったく理解できない。
これからしばらくの間、行動を共にする相手のことは少しでも理解しておく必要があると考えたリノは改めて彼女を見た。
焦点を合わせ様子を見ようとしたのだが、その瞬間に彼女は顔をこちらへ向け、見た目からは信じられない程に鋭い視線をぶつけてきた。
その恐ろしさに思わず息を飲み、ぎこちない動きで顔を背ける。
彼女から霊力は感じなかったため索敵の警戒術を張り巡らせることは不可だったはず。
それなのに……
いや、術を発動せずとも誰かに見られていると感じる時はあるものだ。
今回は偶然にも彼女の勘が冴えていたに違いない。
きっとそうだと自分に言い聞かせていたリノは、食事の輪の面々から名前を呼ばれていることに気がついた。




