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少女リノは複雑に混ざり合う感情を抱きながら前方を見つめていた。
そこには不本意な経緯で行動を共にすることになってしまった珍妙なハンターたちがいる。
出会ったばかりで、しかも年上の相手に対して珍妙という言葉を使うのは失礼だと理解している。
穏やかな出会いであれば冷静に考え「実に個性豊かな一行ですね」ぐらいには衣を着せた言葉を使えただろう。
だが、今に限っては複雑な感情の大半を占めている怒りが、その歪な組み合わせの一行を表現するには、その言葉しかないと訴え譲らなかった。
立腹している相手、それは金髪の青年レイヴァンである。
目鼻が整っていて背が高く、醸し出す雰囲気は冷静沈着。
容姿に非の打ち所は無く、学校の男子では足下にも及ばないほどの格好良さ。
同行する二人の友人アーシェとシンディも彼を見た瞬間に思わず魅入っていた。
ただ……
「何て嫌な性格してんのよ!」
思わず叫んだリノは携帯食として作られた硬いパンを勢い良く噛み千切る。
そして少女らしからぬ大きな咀嚼を繰り返してから一息に飲み込むと、もう一方の手に持っていた水袋に口を付け一気に呷った。
「あんな奴の思い通りに動くことになるなんて!」
彼らの旅の目的は最上級悪魔であるメフィストフェレスを討つこと。
そう自己紹介したはずなのに、別れ際になって兄のノアが封印しようとしているラヴァワームを横取りすると言い出した。
そして、横取りをするが封印は忘れるとも言った。
それが兄を助けるための口実なのは明白だった。
精霊術学校の卒業試験は部外者に助力を求めてはならない。
その規則を守るため、彼らはあくまでも自分たちの失態で悪魔を封印し損ね、偶然近くに居た兄が代わって成果を上げるという状況を作り出すつもりなのだ。
兄も本気を出せば実力は十分にあるはずで、そのような卑劣な手段で卒業してはロディニア国南都サウスローの名家マテリアル一族にとって末代までの恥。
何としても阻止しなければならない。
だから、嘘をついているか否か後を追ってきて確かめたら良いと言われ迷わず「確かめてあげようじゃないの!」と返した。
自分たちの目があれば兄たちは不正をしないと考えての回答だったが、よくよく考えると彼の発言にはもう一つの意味が込められていることに気がついた。
それは私たちが兄と行動を共にするように仕向けたということだ。
私たちが監視をしたことで彼らが意図的にワームを見逃すことは無くなったとする。
その場合、ワーム退治そのものを素直に実行するだろうか?
……おそらく、しないだろう。
何故なら、彼らの目的は兄への協力であり路銀稼ぎではないからだ。
本領を発揮できなかった兄が窮地に陥った場合、同じ学生である我々が手を貸しても何ら問題にならないことを確認している彼らは私たちが救いの手を差し伸べると踏んで何もしないだろう。
加えて、いくら一族の恥とは言え兄を見殺しにすることなど出来るはずがないとも。
つまるところ、兄は私たちの協力により極めて高い確率でワームを封印することができるはずだと。




