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視線で続きを促されベルゼビュートは再び話し始める。
「我々と違い魔力を持たず、記憶力は低くく、生きている時間が極端に短い人間は情報を正しく後世に伝えるため、その情報を紙に記し書物として残しているんだ。 それには封印の楔に関することが平然と書かれていてね」
「それ本当なの!?」
「口を閉ざしていたのは一瞬だったか。 でも仕方のないことだ、私だって貴重な情報を外部に残していると知った時には驚いたからね。 それと同時に人間を操り情報を吐かせようとしていた自分が実に滑稽に思えてね、数日間笑いが止まらなかったよ」
「それで、その書物ってのには、どんな情報があったのさ」
「色々と記載はあったのだけれど、要望どおり要点だけを伝えると、封印の楔とされる人間は五人しか居ないようだ」
「五人しか居ないだって!?」
頷く話し手はグラスに残っていた酒を一気に呷ると「間違いないよ。 ある書物に『世界の安寧が乱れた時、五つの国の王たちは自らの血を賭して数多の厄災を北の大地に封印した』と書かれてたし、他の書物には『五人の王の血は封印の礎となった』と書かれていたからね。 他にも色々な情報があって、それらをまとめると封印の楔は五人しか居ないという結論に辿り着く」と答えた。
「それは、どういう事だ……」
話を聞かされたメフィストフェレスが再び腕を組み唸りだすと、その様子を見ながらベルゼビュートは続ける。
「君が人間の国々を回り、人間の王族たちを殺していることは実に正しい行いだ。 書物の内容からして封印の楔とされるのは間違いなく王族の子孫たちだからね。 ただ、ここで疑問が生じてくる。 封印の楔とされる人間を五人殺したのに、我らの王がお目覚めにならないという矛盾だ。 この問題について、君はどう考えるかな?」
「そうだな…… 単純に六人目七人目の封印の楔が居るんじゃないかな? 人間の言う事なんて当てにならないし、馬鹿だから書物に間違った情報を残したのかも」
「確かにそれは一理あるかもしれないね。 でも、他の事も考えられるよね?」
「他の事?」
「封印の楔を五つ解放したという情報は元々君からもたらされたものだ。 その情報が間違っている可能性さ。 君は確実に五人を殺して、確実に五つの封印を解放したのだろうか?」
「……一体誰に向かって聞いているのさ」
あどけない表情をしていたメフィストフェレスだったが、質問の内容が癇に障ると途端に不機嫌な表情を見せた。
もたれていた身体を起こし「ベルゼさんじゃなかったら即首を刎ねているところだ」と紅い瞳で相手を鋭く睨みつける。
「……これは失礼をした。 不躾な質問を許してくれ。 あくまでも一つの可能性を示唆しただけで君の功績を疑うつもりは無いのだ」
「本当にそうなのかな…… でも、まぁ、許してあげるよ。 僕は心が広いからね」
わずかな時間で険しい表情を緩めたメフィストフェレスは再び椅子にもたれかかった。
「でも、ベルゼさんにそんなこと言われると、自信が無くなって来ちゃうってのもまた事実なんだよね…… 実は五つの楔に何かしらの違いがあったのかもしれないしさ」
「違いとは?」
「さぁ…… 何の確証もないけど、言ってみただけ」
両手を後頭部へと回したメフィストフェレスは封印を解放した時の事を思い出そうと顔を上げ天井より遥か先を見つめた。




