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ロディニアの隣国での事件を解決したレイヴァンたち一行は滞在した街に別れを告げ、ロディニア南部の国境を目指し険しい山道を歩いていた。
身体への負担を考えるなら平坦な街道に沿って進むべきだが、街道は連なる山々を避け大きく迂回する経路であるため、これ以上の遠回りは御免だとレイヴァンは途中から脇道に逸れ、次の街まで一直線の道を選んだのだ。
人通りが極端に少ないため彼らを狙って現れる賊たちを心配する必要は無かったが、草深い山林故に凶暴な悪魔たちには頻繁に遭遇した。
もちろん、それを承知の上で足を踏み入れた一行なので命が危険に晒されることはなく淡々と悪魔を封じ込めながら進んではいたが、ただただ続く連戦に皆が深い息を吐いた。
戦闘が多いこと以外に問題は無く順風満帆に国境の街へ向かっていると言える状況だったのだが、丸一日が過ぎた頃から一行は妙な雰囲気に包まれていた。
いや、正確に言えば、妙な雰囲気については街を発つ時から薄々は感じていて、それが今皆の中で確信に変わったのだ。
ただならぬ様子だと言うことは歩きながら自然と距離を詰めた三人の顔ぶれからも解る。
戦闘が一段落した際、一行の中で一番他人に無関心なフィーネの下に一番楽観的なブライトが神妙な表情を見せて近づくと、普段なら二人とは絶対に並んで歩かないはずのリルが、彼らの間に割り込み小声で問いかけた。
「街を出てからのマリーさん、何か変じゃないですか?」
「そうか? どっちかって言うとレイヴァンの方が変だと思うけど」
「ご主人様は変じゃないです! でもマリーさんは絶対に変です。 フィーネでもないのにお昼ご飯を用意する時、簡単な調理を失敗してたです」
「私が何時失敗したのよ」
「何時もです。 この数日でリルは理解したです。 フィーネは料理できないです。 下手です。 見た目だけの女だったです」
「このバカ猫娘、いきなり言ってくれるじゃないの!」
即座に剣の柄に手をかけるフィーネを見てブライトは慌てて彼女を諭し、続けてリルに言い聞かせる。
「リル! こんな時に無駄な喧嘩ふっかけるんじゃねぇよ! お前はこの妙な空気が気になって声をかけてきたんだろうが!」
「そうでした」
「……ほら、また妙な空気が膨らんだじゃねぇか。 俺がお前を躾るとか有り得ないぞ」
「確かにそうです」
頭をかくブライトは一つ息を吐くと、改めてフィーネに問いかけた。