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「ど、どうして、そのような事を?」
「最近のマリーさんは何でもない時に動きが止まっているですし、この前は料理を失敗してたです。 マリーさんは携帯食料を美味しい料理に変える天才なのに失敗するなんておかしいです。 これは調子が悪いに違いないと、ブライトやフィーネと話してたです。 でも、マリーさんが悪くないと言うのなら悪くないです。 リルの勘違いでした。 変なこと聞いて、ごめんなさいです」
「い、いえ、そのようなことで謝っていただく必要は何処にも。 むしろリルさんに心配をかけさせてしまった私が謝らなければ……」
「それこそ謝らないで欲しいです。 そんなことで謝ってはダメなんです」
「どういう事でしょうか?」
「リルも、よくご主人様に心配をかけさせるなって言われるです。 そんなつもりは全然無いんですけど、何故か言われるです。 とっても謎です」
「それで?」
「言われる度にリルも謝っていたんですが、ある日ご主人様がお前に謝って欲しくて心配しているわけではないって教えてもらったです。 主人として従者を気にかけているだけだって。 でも、主人に対して従者が無駄な事をさせることは許されない。 だから心配はかけさせるな。 らしいです」
「レイヴァンらしいですね」
「そして最後に、どうしても謝りたいのなら、その代わりに感謝の言葉を伝えろって言っていたです」
「……そうですね。 本当にその通りです。 心配をしてくれて、そして素敵な事を教えてくれて、ありがとうございます、リルさん」
「どういたしましてです!」
マリアンの謝辞に対して満面の笑みを返したリルだったが、彼女は突然短い言葉を発して立ち上がった。
「急にどうされたのですか?」
「ブライトの声が聞こえるです! ご主人様たちが帰って来たみたいです! お出迎えしなきゃです!」
「本当ですか?」
「リル、耳には自信があるです。 間違いないです。 ブライトがリルとマリーさんを呼んでいるです。 さぁ、マリーさんもお出迎えするです!」
言い終わるや否やリルは勢い良く洞穴から飛び出して行く。
その様子を微笑ましく見ていたマリアンだったが、彼女が視界から外れると顔を伏せた。
「リルさん、私を心配してくれて、本当にありがとうございます。 ……でも、私は大切な存在である貴女に対して隠し事をしてしまっている駄目な修道女なのです。 だからと言って、打ち明ける勇気も無い。 私がレイヴァンに対して思ったことを貴女に伝えてしまったら……」
「マリーさん! 何してるですか! マリーさんも早く出てくるです!」
リルの声に顔を上げたマリアンは精一杯明るく「今、参ります!」と返事をして立ち上がった。




