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リルは得意げな表情で「とっておきのがあるです」と喋り始める。
「実は寝る前にご主人様とお話をして、呼び方をどうしたら良いか聞いたです」
「本当ですか!? そ、それで、結果はどうなりましたか? 名前を呼ばれたレイヴァンは喜んでくれましたか?」
珍しく興奮気味に尋ねるマリアンに向かってリルは首を振った。
「それが…… 名前で呼ばれるのは調子が狂うから嫌だって言われたです」
「そんな! レイヴァンはリルさんに向かって何と酷いことを言うのでしょうか。 信じられません!」
「リルも最初は悲しかったですが、ご主人様がご主人様と呼べるのはリルだけだって教えてくれたので悲しくなくなったです。 リルは特別なんです」
「それは、そうなりますが……」
「最終的にご主人様は好きに呼べば良いと言ってくれたので、リルは寝ながら考えたです。 その結果、リルはご主人様のことをこれからもご主人様と呼ぶことに決めたです」
「……そうですか。 リルさん自身が納得されて決めたのでしたら、私がこれ以上口を挟むのは良くありませんね。 これからもレイヴァンのことはご主人様と呼んであげてください」
「もちろんです!」
嬉しそうに答えたリルは、続けて「ところで」と切り出した。
次から次へと目まぐるしく変わる話題にきょとんとした様子を見せるマリアン。
発言者であるリルはそんな様子には気付かぬまま、彼女に向かって「マリーさんは最近調子が悪いですか?」と尋ねる。
その質問は色々と言葉が足りていないのだが、今回に限っては十分に相手に伝わったようだ。
背筋を伸ばしたマリアンは「ちょ、調子ですか? ……べ、別に悪くはありませんよ」とあからさまに上擦った口調で答えを返した。




