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「何でリルとマリーさんは待機なんですか」
地平線を離れた太陽の光が差し込む洞穴の奥。
砂の地面に座り込んだリルは足下近くにあった小石を摘むと壁に投げつけながら呟く。
「それはリルさんを危険な目に遭わせたくないと考えたレイヴァンが、ここで待つように言ったからです」
膝を抱える彼女を宥めるため、隣に腰を下ろすマリアンは優しい声で答えた。
彼女は「だったらフィーネは連れていかなくて良いと思うのです」と頬を膨らませるリルに向かって「フィーネさんは戦闘に巻き込まれたとしても対処できる方ですから」と続ける。
「リルだって精霊石を使って戦えるです。 なのにフィーネだけ連れて行くなんて…… 最近のご主人様はフィーネに対して妙に優しい気がするです。 それって何か変です」
「そうでしょうか? レイヴァンは誰に対しても優しく接していると思います」
「ご主人様が優しいのは解ってるです。 でも何か雰囲気が違うです。 もしかしてご主人様はフィーネに誑かされたのでしょうか?」
「誑かすとは、また難しい言葉をご存じなのですね」
マリアンが微笑むと、リルは「それぐらい解ってるです」と口を尖らせた。
「そもそもフィーネは新参者のくせに態度が人一倍大きくて図々しいと思うです! 何より、ご主人様に対して馴れ馴れしいのが許せんのです。 ちょっと目を離すと直ぐにご主人様に寄って行って色目を使っているです!」
「リルさん、フィーネさんのことを悪く言ってはいけませんよ。 ましてや本人の居ない所で陰口など言語道断です」
「マリーさんは相変わらず良い人です。 フィーネの態度について何の文句もないですか?」
「もちろんです。 むしろ、あの気概には見習うべきところが沢山あると感じているくらいです」
「マリーさんがフィーネを見習ってご主人様に胸を押し付けたり、お尻を触らせようとしたらリル困っちゃうです」
「そのような破廉恥行為、絶対に真似しませんから安心してください! そもそも、フィーネさんもそのような行為に及んだことはないはずです!」
「リルたちの見ていない所でしているかもしれないです。 とりあえず、マリーさんがフィーネみたいにならないと分かって良かったです! リル、早速安心したです。 安心したところで、何か面白い話をしてくださいです!」
「……え?」
少々立腹しているところに突然話題を出せと言われ戸惑うマリアンに向かってリルは続ける。
「これ以上、フィーネの話をしていてもつまんないです! 別の話をしましょうです!」
「そ、そうですね……」
彼女の真剣な表情に無理だとは言い出せず、マリアンは頷いた。
しかし、コレと言った話題、ましてや面白い話が直ぐに思いつくはずもなく沈黙が生まれてしまう。
どうしたものかと悩む彼女が導き出した答えは逆にリルから話題を振ってもらうことだった。
話すことが思い浮かばないことを素直に伝え丁寧に謝罪してから代わりに何か話してくれないかと頼むと、リルは自信満々に「お任せあれです」と胸を叩いた。




