~ 42 ~
ブライトが突然口にした提案にノアやリノはもちろん仲間内であるレイヴァンですら目を見開いて驚いた。
呆気に取られ誰もが言葉を忘れる中、最初に我に返ったのはリノだった。
彼女は「そんなの駄目に決まっているじゃない!これは私たちの卒業試験なのよ!」とこれまでで一番険しい表情でブライトを睨みつける。
「何でダメなんだよ。 話の流れからして、ノアは俺たちと行動を共にするべきだろう? 君たちとは目的地が違うみたいだし、一人で行動するのも危険なんだから」
「そうだけど、駄目なものは駄目なのよ!」
感情的に答えるリノに代わってシンディが前に進み出る。
「これは我々の卒業試験ですから、生徒以外が課題に関与することは認められていないのです」
「部外者が関与した時点で即落第って訳」とアーシェも続く。
「じゃあ、安全な街まで送るってのは?」
「それは問題ありません」
シンディが頷く横でノアは慌てて首を振った。
「そ、それは困ります! 僕はどうしても、この課題を解決したいんです。 期日までまだ三日ありますし、今街に帰る訳にはいきません!」
「だけどよ……」
ブライトは頭を掻きながら、複雑に絡まろうとする話を必死に整理する。
部外者である俺たちはノアに協力してやれない。
妹たちは目的地が違う。
ノアが一人で行動するのは危険で、彼の知り合いは行方不明。
それに合流できたとしても協力してくれる確証は無し。
どうみても手詰まりなのに、ノアは諦めきれないときた。
「これは困ったな…… レイヴァン、何とかしてやれないかな?」
「俺が話すと理詰めで面倒臭いが?」
「悪かったよ」
ブライトが場都合が悪そうに詫びると、対峙するレイヴァンは再びノアに向かって話かける。
「十分に検討しないまま伝えることは本意ではないが、この状況下において君が目的を達成する方法は一つしかないと考えている。 それは妹たちに協力を仰ぐと言うことだ。 理由は解るだろう?」
「ですが……」
「妹に協力を願い出るのは兄としてプライドが許さないか?」
「プライドとかは、別にありません。ただ、妹に迷惑をかけるのは悪いかなって」
「それなら話は早い」
頷くレイヴァンはリノに向かって続ける。
「君はどうだ? 自分たちの課題と合わせて兄を助けることは出来ないか?」
「別に出来なくはないわ。でも、お断りよ。 サウスローの名家マテリアル家の一族が単なる学校の卒業試験で、しかも自分で決めた課題を解決出来ないだなんて。 そして、それを打開するために年下の私たちに協力を仰ぐだなんて…… 末代までの恥だわ!」
「兄妹仲良くしないのは恥にならないのか?」
ブライトが横槍を入れると、リノは「これはお兄ちゃんの為なの!」と睨み返す。
「お兄ちゃんはもっと自信を持って臨めば何だって出来るはずなの! 私たちはロディニア国一、いいえ大陸一の精霊術士であるお爺ちゃんの孫なんだから!」




