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「だったら、何故こんな所に?」
レイヴァンの質問に対しノアは伏せ目がちに答える。
「僕、大きくなったらお城で王様の臣下として働きたいんです。 臣下になる為にはいくつかの学問を修めなければならないのですが、修めたことを証明するためには学校を卒業する必要があります。 だから何としても試験に合格したい。 でも僕は実技の成績が良くなくて、卒業試験ではそれを補うために実戦形式の課題を解決しようとしているんです。 この課題を解決することができれば、僕は全ての科目で規定値を上回ることができるので」
「実技の成績が悪いのに、実戦を行うのは無謀ではないか?」
「仰るとおりです。 だから僕の課題に協力してくれる同級生の人たちと一緒に来たんですが……」
「逸れたのか?」
レイヴァンが端的に聞くと、ノアは目を伏せたまま首を振った。
「昨日までは一緒に行動していたのですが、今朝起きたら誰も居なくて、荷物も無くなっていて…… 恥ずかしながら置いて行かれたみたいなんです」
「そんな生温い話ではないと思うがな」
レイヴァンが表情険しくノアを見ると、彼はその事実を受け入れたくないのか必死に首を振って声を絞り出す。
「僕が戦闘で役に立たないから! 精霊術がまともに使えないから! ……仕方が無いんです!」
「だとしても、道具を持たず何の対策も出来ないまま、こんな物騒な林を歩いていたらどうなるか、学校に通うほどの人間なら容易に解るはずだ。 実際、君は朝から襲われたのだぞ? ブライトが悲鳴に気がつかなければ今頃巨大蜘蛛の胃袋の中だ」
「それはそうなんですけど……」
「レイヴァン、それぐらいにしてやってくれ。 お前さんは真面目な話になると口調が厳しくなって怖いんだよ。 話を聞く限りノアが悪い訳じゃないだろ? それなのに説教みたく聞こえる」
「誰でも真面目な話をする時は抑揚が無くなりこのような調子になるものだ。 それに、繰り返し言うが中途半端な事を伝えても相手の為にならん」
「それは解るが、相手がビビってたら伝わるものも伝わらなくなる。 お前はそういう所がダメなんだだ。 ……良いか? 少年にはもっと優しくだ。 俺が手本を見せてやるから」
レイヴァンとノアの会話に割って入ったブライトは身体でも二人の間に入り込むと、満面の笑みをノアに向けながら話しかける。
「うちの堅物が色々と悪かったな。 こいつ普段は口数少なくて無愛想なくせに一度話し出すと理詰めで面倒臭いんだ。 許してやってくれ。 で、こっからは俺が代わって話し相手をする。 ……と言いたいところなんだが、今はこれぐらいで切り上げて移動したいんだ。 レイヴァンたちが巨大蜘蛛を退治してくれたとはいえ、まだまだ物騒な山林だし、俺自身右手の手当てをしてもらいたいからな。 だから、俺からは一つだけ質問をする。 ノア、お前さんは実戦の試験とやらに合格したいようだが、いったい何をするつもりだったんだ?」




