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「何かしら?」
リノはレイヴァンの問いかけに直ぐに反応した。
いがみ合っていて頭に血が上っているかと思われたが、意外に冷静だ。
「すまないが、質問があるのは兄の方なのだ」
レイヴァンは顔を向けてくれた少女に軽く詫びるとノアを見据え「今しがたブライトは君が仲間と合流したくないと考えているようだと言った。 その仲間とは妹たちのことか?」と尋ねた。
問われた少年は僅かな沈黙の後、ゆっくりと首を振って答える。
「ならば、彼女らと行動を共にするのは問題ないわけだ」
「それは…… そうですけど。 僕とリノたちは目的地が違うので一緒に行動するわけにはいかないんです」
「目的地が違う? 君たちは卒業試験のために精霊の泉とやらに向かっているのではないのか?」
「それはリノたちが設定した課題なんです。 卒業試験ってのは自分たちで自由に課題を決めることが出来て、それを解決することで難易度に合わせた点数を獲得できるんです。 それを期間中繰り返し行い、最終日にこれまでの通常講義で獲得した点数と合算し全ての科目が規定値を上回っていれば合格。 学校を卒業することが出来ます。 僕は精霊の泉に行くことを課題にしていないので、妹たちと合流して行動しても得点には繋がらない。 意味がないんです」
「なるほど、妹たちと一緒に行動することが不本意であることはよく分かった。 しかし、君はこの山林を一人で抜けることが出来ると考えているのか?」
「それは……」
ノアが俯くとレイヴァンは少し間を置いてから続ける。
「君から感じる霊力は極めて小さい。 悪魔を討つほどの術は発動できないのではないか? それでいて悪魔が多発する山林を単独行動しようとするのは、とても正気とは思えない。 仲間たちと合流したくないのなら、せめて精霊術の扱いに長けていそうな妹たちと一緒に行動しなければ今日中に死んで翌日には骨だけになるぞ」
「レイヴァン、相手はまだ子供なんだから、もう少し柔らかい表現ってもんがあるだろ」
「俺は事実を伝えているだけだ。 曖昧な話をした結果、相手に死なれては、こちらとしては気分が悪い」
「だけどよ……」
「ブライトさん、お気遣いありがとうございます。 だけど、レイヴァンさんの言うとおりなんです。 僕は妹と違って精霊術がほとんど使えません。 剣だって扱えません。 こんな所で単独行動できるような人間ではないことは重々承知しています」




