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「まったく、この人たちに助けられたのなら最初からそう言わないとダメじゃない!」
「そ、そんな事言ったって、リノは容赦無く攻撃してきたじゃないか…… それなのに、いつ伝えろって言うのさ」
「私が攻撃する前よ!」
「僕らは奇襲されたのに、その攻撃の前にだって?そんなの無理に決まっているよ」
「男なんだから直ぐに無理とか言わないの!」
林の中で青髪の兄妹が向かい合い口論を繰り広げていた。
いや、この状況を正確に表すなら妹の一方的な主張と言った方が正しいのかもしれない。
長い青髪を左右均等に分けてリボンを結い、丈の短いワンピースに膝上まである白い長靴下と丈夫そうな革のブーツを履いた少女。
彼女は兄と呼ぶ彼の前でマントをなびかせながら仁王立ちになっており、対峙する少年は妹を前にして妙に及び腰だ。
ブライトは叱責を受ける少年に同情し、助け船を出そうと「とりあえず、安全な所に行かないか?」と提案したが、彼女は「行かない」とバッサリ切り捨て、「この辺りは巨大な蜘蛛が出るみたいなんだが」と付言すれば、「巨大蜘蛛なら、ここに来るまでに殲滅したわ」と即答する。
小さい身体で巨大蜘蛛を殲滅するとか、どんな少女だとブライトが隣人に目で訴えると、助けを求められたと察したレイヴァンは冷静に口を開いた。
「殲滅という言葉の意味は正しく理解していると考えても差し支えないのか?」
「当然よ」
少女は先程と同じ様に淀みなく答える。
「ならば、その根拠が知りたい」
「ここに来る途中で数体と遭遇、交戦したの。 あの蜘蛛は悪魔の狂気によって巨大化した地中棲の土蜘蛛の一種で群れる習性があるのよね。 だから戦闘中に仲間が出てきたら面倒なことになるから二手に分かれて巣穴を見つけ出し、先に焼き払ったってわけ」
「焼き払ったということは君は火の精霊術も扱えるのか?」
「残念だけど、火の精霊術はまだ使えないわ。 だから、今回はアーシェに頼んだの。 彼女は火の精霊術の達人なのよ」
青髪の少女が振り返った先には赤茶髪の少女がいた。
アーシェと呼ばれた彼女は白いタンクトップに革の胸当てを身につけ、細綾織りの綿布で作られたズボンを履いた姿で一見すると格闘家と同じような格好なのだが、彼女もまた青髪の少女と同じように精霊術が使えると言う。
彼女は術の達人だと言われたからか照れながら人差し指で鼻の下を擦り、白い歯を見せる。
短い髪と相俟って少年の様な印象を持つ少女だ。
「複数の氷柱を的確に狙い撃ったり、巣窟を焼き払ったり、君たちは手練れのようだが、いったい何者なんだ?」




