~ 35 ~
「一緒に行動するだと?」
ブライトの意見に怪訝な表情を見せ声の調子を落としたレイヴァンは続けて彼を諌めようとしたが、辺りの様子が変化していることに気がついた。
朝を迎え太陽が昇り地表は温まってきているはずなのに、この場所は気温が急激に下がってきている。
「ブライト! 後方に飛べ!」
「……へ?」
「早く!」
突然声を荒げられ名前を叫ばれたブライトだったが、彼は反射的にその指示に従った。
彼の両足が地面から離れた瞬間、その場所には巨大な氷柱が一瞬でそそり立つ。
そしてその現象は一箇所だけではなかった。
レイヴァンや少し離れた所にいたフィーネの足下でも同様の現象が起こったのだ。
「今度は何だよ!」
驚愕の表情を浮かべるブライトに対してレイヴァンは回避しながら冷静に状況を見極める。
地面から氷柱が一瞬で生えるなど自然現象では起こり得ない事だ。
禍々しい魔力を感じないため悪魔の仕業でもない。
つまり、これは人間が精霊術で起こした作為的なもの。
賊の類からの攻撃だと認識した彼は素早く抜剣して身構える。
そんなレイヴァンに向かって思わぬ言葉が浴びせられた。
「そこの山賊たち、無駄な抵抗を止めて武器を捨てなさい! 言うことを聞かないなら降参するまで容赦無く精霊術を浴びせ続けるんだからね!」
「レイ、右!」
フィーネの声に従い顔を向けると、そこには賊の容姿からは掛け離れた実に愛らしい三人の少女が今にも術を発動せんと構えていた。
「待て! 俺たちは山賊ではない!」
レイヴァンが思わず叫ぶと、先頭にいた青髪の少女が直ぐに叫び返す。
「嘘よ!」
声から判断して今しがた投降を求めたのも彼女のようだ。
彼女は警戒を緩めようとはせず、険しい表情のまま更に言葉を紡いで叫ぶ。
その一言はレイヴァンたち三人を更なる混乱へと落とし入れた。
「だったら、今すぐにお兄ちゃんを離しなさい!」
……お、お兄ちゃん!?
誰の事だと辺りを見渡す三人だったが、今この状況下で思い当たる人物は一人しかいない。
一斉に視線を送り真偽を問うと、少年は場都合が悪そうに小声で「妹のリノです」と答えた。




