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「無事か?」
ブライトは蜘蛛三体を屠り終えたレイヴァンに声をかけられた。
「二人が駆けつけてくれたお陰で、何とか喰われずに済んだぜ」
「それは何よりだ」
剣を収め歩み寄ってくる彼を正面に捉えながらブライトは辺りを見渡す。
「マリアンちゃんとリルは?」
「二人は洞穴の奥で待機させている。 一夜を無事に明かせた場所だからな。 悲鳴が聞こえた此処へ同行させるよりは安全だろう」
「来たら巨大蜘蛛と御対面だったもんな。 ホント、来なくて良かったよ。 ……まぁ、マリアンちゃんは居てくれても良かったかも、だけど」
残念そうに呟くブライトは徐に自分の右手を見つめる。
傷ついた手からは未だに血が流れ出していた。
「かなり深そうな傷だな」
「少しだけさ。 時間が無くて手の中で精霊石を使ったら、こうなった。 ……まぁ、使った石が『風刃』だったから、この程度で助かったって思ってる。 『炸裂』だったら、今頃右手が無くなってたかもしれないしな」
「攻撃の精霊石を手の中で発動させるなよ」
「解ってるって。 ただ、今回は緊急事態だったんだ」
「なら、今後は緊急事態に陥らないように対応して欲しいものだ」
「解った。 それも気をつける」
「ねぇ、二人とも。 こんな所で話し込むよりも先にやるべきことがあると思わない?」
レイヴァンとブライト、男二人の会話に割って入ったフィーネは視線を救い出した少年に向けていた。
彼女の声で我に返った二人は同時に「確かに」と頷き、同じように少年を見据える。
三人に見つめられ緊張の面持ちとなった彼は「皆さんのお陰で蜘蛛に食べられずに済みました。 助けてくださり、本当にありがとうございます。 何か御礼をと思うのですが、あいにく今は手持ちが何も無くて…… 申し訳ありません」と深々と頭を下げた。
「いや、だから、そんなに頭下げなくて良いんだって。 俺たちは、たまたま近くに居ただけなんだ。 御礼が欲しい訳でもないし。 とにかく気にするな。 レイヴァンだって、そういう考えだよな?」
「そうだな。 謝辞を述べている時間があるなら、一刻も早く安全な所へ移動すべきだろう。 少年、お前は何処から来たんだ? 同行者は居ないのか?」
レイヴァンが少年に質問を投げかけると、本人が答えるよりも早くブライトが何かを思い出したかのように短い声を上げる。
「そのことなんだが。 こいつ、どうも仲間と合流したくないみたいなんだ。 だから、しばらく俺たちと一緒に行動させたいんだが、どうかな?」




