~ 32 ~
銀髪の悪魔ベルゼビュートは目前で起きた出来事には動じず、グラスに注がれた酒を一口飲んでから口を開いた。
「この酒の千年物は滅多に手に入らない代物だよ。 一口ぐらい飲んでから空ければ良いのに」
「今は忙しいって言ってるでしょ」
「そんなに急ぐ必要があるのかい?」
「何処の誰かが最後の封印の楔を解放しようとしているからね」
「それはそれは……」
「ベルゼさんは、ここに来て何を企んでいるのかな?」
「企むも何も、王の封印を解く、その手柄を独り占めされたくないと思っていてね」
「今まで何もしないで傍観していたのに、今更になって参加表明? 冗談キツイでしょ」
「当初は全て君に任せるつもりでいたよ。 ……でも、今は状況が違う」
「やっぱり何か知っているんだね? それを早く話してくれないかな?」
「人間の言葉に、持ちつ持たれつって言葉があるんだ。 メフィスト君はその言葉の意味を知っているかな?」
「知らない」
眼光鋭くなった黒髪の悪魔メフィストフェレスが即答すると、ベルゼビュートは実にわざとらしい溜息をついてから話を続ける。
「簡単に言うと相互扶助を示す言葉さ。 君の言うことには、それが微塵も感じられない。 情報が欲しいのなら、それに見合った対価を払ってもらわないと。 自分が知る情報を話すことは吝かではないけれど、君からも何かしらの情報を提供してもらわないと、こちらとしては快諾する理由が無いことぐらい解るだろう?」
「確かにそれはそうだね。 だけど、僕はこれと言ってベルゼさんの食指が動くような情報を持っていないんだ。 だから一方的に話してもらうしかない」
「自分にとって塵芥だと思っていたものが、他人に渡った途端宝に化けることは良くあることさ」




