~ 31 ~
何時でも喰らいつくことが出来る状態にいた巨大蜘蛛がバランスを崩し、地面に仰向けに転がると小刻み震え始めたのだ。
「こいつは、いったい……」
呆気に取られている彼の耳に再び女性の声が届く。
「助けに行った人間が助けられるなんて、実に無様ね」
「この声は!」
ようやく声の主が誰であるか気がついたブライトは横になったまま彼女へと顔を向ける。
「フィーネ! 助けに来てくれたのか!?」
「寝転がりながら満面の笑みで私の名前を叫ばないで。 気持ち悪い」
歩み寄ってきた彼女はブライトに一瞥をくれると直ぐに少年へと視線を移し、品定めをするかのように全身を隈無く見る。
「可愛いらしい坊やね。 ブライト、あなた女に持てないからといって、少年に手を出したりしていないでしょうね?」
「おいおい、俺らは悪魔に襲われていたんだぞ、そんなことに興じている時間が何処にあるってんだ。 何より、俺にそんな趣味は無い! それよりも、巨大蜘蛛は他にも数体いるんだぞ。 悠長に話なんかしてないで、退治するか逃げるかしないと!」
「そんなことは百も承知よ。 でも、私の役目は終わったし、後の事はどうなろうと知らないわ」
「フィーネ! お前!」
「何で私を睨むのよ、私はあなたの命の恩人でしょう。 それに、勘違いまでして…… 人の話は最後まで聞きなさいよ。 ほんと、筋肉単純バカなんだから」
「何だって!?」
「だから、ほら、あれ」
フィーネが視線を移すと、ブライトはそれに従って顔を向ける。
すると其処には巨大蜘蛛と対峙する男が居た。
後ろ姿で顔は見えないが、それが誰であるかは一目瞭然だった。
黒ずくめの軽装に際立つ金髪。
剣は左手に握られている。
「レイヴァン!」
思わず上げた声には安堵感が溢れていた。




