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ブライトは蜘蛛を仕留めると木に背中を預けていた少年へと歩み寄り「大丈夫だったか?」と声をかけた。
彼は今起きた事が信じられない様子で、開いていた口を一度閉じてから「はい」とだけ答えた。
「見た感じ怪我は無いみたいだな。 ……立てるか?」
手を差し伸べると、相手は素直に応じて右手を差し出す。
だが、握ることが出来ないことに気がつき慌てて上げる手を左に変えた。
どうやら少年は俺が左手を差し出した理由に気がついたようだ。
直ぐに「血が!」と顔面を蒼白にしながら叫んで動揺し始める。
「流石は風刃の精霊石だな。 でも、まぁ、こんなの大した傷じゃないさ」
「で、でも! 血が止まっていませんよ!」
「さっきまでビビって腰抜かしてた奴が一丁前に他人の心配なんかしなくて良いんだって。 こんなのは直ぐに止まるから心配無用だ。 ……それより、ほら、しっかり立て」
彼を左手一本で引っ張り上げて立たせると、続けて身体に着いた土を払ってやり、最後に気合い注入と言わんばかりに背中を叩いてやる。
少年は背筋を伸ばした後、深々と頭を下げた。
「危ないところを助けて下さり、本当にありがとうございました。 怪我を負わせてしまって何とお詫びしたらよいのか…… 申し訳ありません」
「いや、なに、お前さんが俺を攻撃したわけじゃないんだから謝られてもな。 それに、そんな大袈裟なことしたわけじゃないんだって。 たまたま近くで野営してたら悲鳴が聞こえてさ。 可愛い女の子だったら大変だと思って駆けつけただけなんだ。 だから、見つけた時、相手が男だと解って心底残念だったわけよ。 正直助けるの止めちゃおうかな〜なんて考えた」
「そんな!」
「だから、そんな相手に対して真面目に感謝するなんて損なだけだぜ。 それより、こんな所で何をしていたんだ? 一人旅でもしていたのか? それとも誰かと冒険していて逸れたのか?」
「そ、それは……」
始めて出会った相手を知る上で最低限の質問を投げかけたつもりだったが、少年は顔を曇らせ口を閉じた。




