~ 25 ~
蜘蛛はこちらを警戒しているのか、今のところ何かを仕掛けてくるような素振りは見せていない。
いや、この体格差からすれば警戒と言うよりも二つの獲物を如何に喰らおうかと品定めをしているだけに思える。
どちらにしても、まずは少年を安全に逃がすことが最優先だ。
ただ、彼は腰を抜かして動けないと言っているので、逃がすためには自分が悪魔を連れてこの場から離れなければならない。
少年に狙いを定めているのなら、こちらに注意を引かなければと考えたブライトは短く息を吐き出すと、一気に相手との距離を詰めた。
そして握り拳を作った右手を大きく振りかぶりながら声を上げる。
「まずは挨拶替わりに一発!」
鋭く突き出した渾身の一撃。
それに対して大蜘蛛は思わぬ行動で応戦してきた。
跳躍。
太い足を素早く伸ばして巨体を宙に浮かせての回避。
「嘘だろ!?」
似つかわしくない機敏な動きに呆気を取られるのも束の間、既に攻守が逆転し自分が攻め立てられていることに気がつく。
「化けモンが!」
頭上の悪魔を見つめていたブライトは咄嗟に地面を蹴って大きく後退した。
次の瞬間、目の前には巨体が着地して、今居た場所に太い前足が二本同時に突き立てられる。
「この!」
一撃をかわすとブライトは再度接近を試みた。
相手が地面に突き刺さった足を引き抜いている僅かな時間で側面へと回り込む。
「大人しくしてろってんだ!」
そしてボヤキとも取れる掛け声と共に拳を振るった。
鈍い衝撃音の後、側腹部を完璧に捉えたその余韻を確かめるかのようにブライトは動きを止める。
「決まった」と笑みを浮かべるブライトだったが、直ぐに顔をしかめた。
「か、硬てぇ……」
引き戻した拳は血が滲んでいる。
今のは間違いなく効いていない。
蜘蛛って、こんなに硬い生き物だったか!?




