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さて、どうしたものか……
ブライトが対峙していたのは八つの赤い眼を鈍く光らせる巨大な蜘蛛だった。
毛むくじゃらな胴体は真っ黒で、腹部の一部に赤い斑点模様。
奇抜な配色が頭の悪い彼にも明らかに毒持ちの生物だと思わせてくれていた。
大きな鋏角は鎌のように鋭いし、尖った太い脚の殺傷力が高いことだって想像に難くない。
悪魔の狂気に煽られて巨大になった蜘蛛。
個体名は解らないが、見るからに強そうだ。
マジで、どうする?
ブライトは考えを巡らせながら、今度はちらりと後方へ視線を移す。
そこに居たのは大蜘蛛とは対照的な小柄な少年だった。
明るい青髪のおかっぱ頭で、若者には珍しい眼鏡をかけている。
厚手のマントと服を見に纏い、丈夫そうな靴を履いた彼は一端の旅人だが、今は身体を震わせ巨木に寄りかかっていた。
「おい、少年! ここは俺が食い止めておくから、さっさと逃げてくれないか?」
問いかけると、半泣きの彼は小刻みに何度も首を横に振った。
「そ、それが…… こ、腰が、腰が抜けてしまって」
「マジかよ!?」
思わぬ答えに渋い顔をしたブライトは続いて自分の足元に視線を落とした。
そこには赤色に緑色、青色に黄色。実に色とりどりの小石が転がっている。
ただし、これは単なる石ではない。
精霊力を宿した小石。
正確に言えば、悲鳴を聞いて駆けつけた時、到着したのは良いが勢い余ってバランスを崩し、呪文唱える前に地面へ撒いてしまった精霊石だ。
レイヴァンやリルが居たら「悪魔の目前で何で転けるのか!」と容赦ない叱責を浴びせられていただろう。
ブライトは彼らが居なくて良かったと苦笑いしながら相手との対峙を続けた。




