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黒い翼を持つ悪魔二人が向かい合っていた。
先に席に着いていたのは少年のような顔立ちをした無邪気という言葉がよく似合う黒髪の悪魔。
名はメフィストフェレス。
何気ない仕草にも幼さが残る彼だが、本当の少年ならば持ち合わせていない気骨が全身から溢れていた。
それを象徴するのが両眼で、吸い込まれそうなほどに深い紅色をした瞳には恐ろしい程の力強さが宿っている。
対して、その鋭い眼差しを向けられている悪魔は腰にかかるほど長い銀髪に切れ長の目をしており、整った顔立ちとあいまって一見すれば女性と見間違うほどに美しい青年悪魔だった。
名はベルゼビュート。
メフィストフェレスと同じく悪魔の中で最上位の階級に属している。
醸し出す落ち着いた雰囲気は二人の年齢に差を感じさせるが、実年齢としては然程変わらない。
両悪魔は口を開くことなく席に着き、互いを探るかのように視線を交わしていた。
その沈黙を破ったのは、銀の皿に漆黒のボトルと二つのグラスを乗せて戻ってきた従者の声だった。
「お待たせいたしました」と声を発するとグラスを並べ、手際良く真っ赤な液体を注いでいく。
立ち込める芳醇な香りにメフィストフェレスは、これは何かと尋ねると、ウコバクは「千年物のネクタールでございます」と答えた。
「お酒は人間が作った物じゃないんだね」
「人間の酒は若いからね。 こればかりは譲れないのさ」
従者が答えるよりも早く館の主が答えると、そのままグラスを持ち上げ、同じ動作を向かい席の相手に促す。
「改めて、ようこそ、我が館へ。 心から歓迎するよ、メフィストフェレス君」
「それは、どうも」
無邪気な悪魔はグラスを手に取ると笑顔で答え、主人の傍らに控えていた従者を手招きで呼び寄せた。
そして「何でございましょう?」と尋ねる彼の頭上でグラスを覆すと空いたグラスは直ぐにテーブルへと戻し、笑顔のまま目前の相手を真紅の瞳で睨みつける。
「とりあえず、封印の楔に関する情報を教えてくれないかな? 僕はとても忙しいんだ」




