~ 19 ~
「一番の問題は私の心が汚れていると言うことなのです」
マリアンの言葉は一言目からさっぱり意味が解らなかった。
どういうことかと尋ねると彼女は一瞬戸惑う様子を見せたが、今度は口を閉ざさずに言葉を紡ぎ続けてくれる。
「先程お伝えしたとおり、レイヴァンが目覚めた時、彼は寝ぼけていて私をミレーニアさんだと勘違いしていました。 それで正す間もなく抱き締められてキスをされて…… 成人の男性からキスをされるなんてこと初めてでしたから、それはもう頭の中は真っ白になってしまって」
「そ、それで?」
「気がついたら押し倒されてて、もう何が何だか解らない状況に。 ……ですが、流石にその行為が行き着く先は解りますから必死に彼を覚醒させようとしまして、最終的には頬を思いっきり叩いてしまいました」
「それならマリアンちゃんは何も悪くない。 気にすることないよ」
「もちろんです。 操を守るのは当然のことですから、頬を叩いたことを彼に詫びるつもりは毛頭ありません。 ですが、問題はその後に起きたのです」
「その後?」
「頬を叩いたことによってレイヴァンは完全に目を覚まし、自分の行為を恥じて私に謝ってくださいました。 ですが、私は……」
「まだ許せないとか?」
ブライトの質問にマリアンは首を振った。
「私は見てしまったのです。 愛する人が存在しないと気づいた瞬間の彼を。 まるで全てを失い、生きる意味を見いだせず、ただ虚空を見つめるだけの彼を。 それは本当に一瞬でした。 でも、その一瞬の表情を見たら私…… どうして彼を叩いてしまったのだろうって強く後悔したのです。 せめて自分で気がつくまで待ってあげれば良かったのかなって」
「それって、つまり……」
「推察されているとおりです。 私はレイヴァンを慰めてあげられるのなら、ミレーニアさんの代わりに、この身を彼に捧げても良いと考えてしまったのです。 我々修道女の心と身体は女神様に捧げられるべきもの。 一瞬とは言え、これは教えに背く行為です。 決して許されることではありません。 その場ですぐに我に返りましたが、懺悔することができなかったのは私の心に卑しい思いがあって汚れているから。 そのことに気がついてからは、ずっと心苦しくて…… 今まで私を慈しみ大切に育てて下さったウィル院長や修道院の皆様を裏切ることになってしまったことが本当に申し訳なくて…… 私……」
溢れ出る感情を抑えきれなくなったマリアンは両手で顔を多い、ブライトの前で声を上げて泣いた。




