~ 18 ~
「そ、そんなに大きな声を上げないでください! 皆さんが起きてしまうではありませんか!」
「いや、だって、二人の仲がそんなに進展しているなんて急に聞かされたら、誰だって」
「違います! これは不慮の事故なんです! 寝ぼけていたレイヴァンが私をミレーニアさんと勘違いしただけなんです! ですから、私もレイヴァンも意図したわけではないのです!」
「わ、解ったよ! だ、だから落ち着いてマリアンちゃん! マリアンちゃんも十分声が大きいから。 ってか、声が澄んでいるから俺より遠くまで響いている気がする。 ……それに事故なら別に騒ぐことないんじゃないか? 女神にだって隠す必要はないと思うんだけど」
「それだけならば、そうなのですが……」
再び声の調子を落とし深く沈み込む彼女にブライトは顔をひきつらせた。
「それだけならば」と言うことは、それ以上があったということだ。
キス以上……
「ち、ちなみに、どこまでいってしまったんでしょうか?」
彼らしくない丁寧な言葉遣いで尋ねるとマリアンは真顔で「何処とはどういう意味でしょうか?」と返した。
「それは、その…… いわゆる、お二人は肉体的な関係を結ばれたのでしょうか?」
そう言われてようやく意味を理解した彼女は、顔を真っ赤に茹で上げた。
「な、な、何をおっしゃっているのですか! そんな事あるわけないじゃないですか! 私はただレイヴァンに抱き締められてキスをされただけです! た、確かに押し倒されましたし、思いもよらないところにもキスをされましたけど、決してそのような関係になった訳では…… って、私に何を言わせるんですか! 酷いです、破廉恥です、ブライトさん!」
「いやいやいや、それ完全に自分で暴露してるし! それに何もないならまったく問題ないじゃないか! それなのにマリアンちゃんは、さっきから一体何をそんなに思いつめて落ち込んでるんだよ! おかしくないか!?」
ブライトは言い放ってから口調が厳しかったと我に返った。
目の前では彼女が目を伏せ口を噤んでいる。
「……悪い、言い過ぎた」
謝るとマリアンは静かに首を振った。
けれど、それ以上は話そうとしない。
ブライトは頭を掻いた後、気恥ずかしそうに彼女に声をかけた。
「……あのさ、良かったら俺に話してくれないか? マリアンちゃんのことだからリルやフィーネには打ち明けていないんだろ? 正直なところ俺は賢くないから大した助言なんて出来るとは思わないけどさ、誰にも話さず一人で抱えるってことが辛いってことぐらいは解るよ。 それに悩みなんてものは案外自分が思うほど深刻じゃなかったりしてさ、笑い話で済むことがあるんだ。 ……どうかな?」
優しく話しかけたつもりだったがマリアンは俯いたまま微動だにしなかった。
この雰囲気はマズい。
ここは面白いことを言って状況を打破しなくては。
ブライトが思案を始めたところでようやく彼女の口が開いた。




