~ 11 ~
紅い月が天頂を過ぎ、草木も眠る頃。
暗い林の中で抱き合うレイヴァンとフィーネ。
一見する限りでは恋人たちの密会なのだが、二人は剣呑な雰囲気に包まれており、仲が良いとは言い難い。
身体が触れ合うほどの至近距離から互いの隙を伺い機会があれば即斬りかかるかのような状態の中、不意にフィーネが「調子が出ないのはミレーニアって子が関係したりするのかしら?」と切り出した。
そして続け様に「昔の夢を見て感傷に浸っているのか、それとも彼女に瓜二つのマリアンが近くに居ることで昔を思い出してしまい集中できないのか」と言い放つと、その瞬間レイヴァンは恐ろしい程に鋭い眼差しをみせた。
一般人ならそれだけで震え上がり、恐ろしさのあまり呼吸さえままならない状態に陥るのだが、彼女は「解りやすい人ね」と可笑しそうに微笑み、負けじと視線を返す。
「嫌な女だ」
「今、絶世の美女だと言ってくれたばかりなのに酷いわ」
「回りくどいことをされるのは気に食わない性分でね」
「あなたたちの行動が明らかに不審なのがいけないのよ。 先日の事件も加味すれば容易に推察できるもの」
「腹が立つ程に優れた観察眼と考察力だな」
「褒め言葉と受け取っておくわ」
「……それで? 人を怒らせておいて何の話がしたいんだ?」
「それはさっき言ったとおりよ。 仲間として心配しているの。 だから、もし過去に捕らわれているのなら私が慰めて忘れさせてあげようと思って。 ほら、私たちって境遇が似ているでしょう? 互いに心の傷を舐め合えば少しは癒されると思わない?」
「仮初めの慰めなど虚しいだけだ」
「捉え方によっては、ずっと慰めて欲しいと言っているみたい」
「誰が言うか」
「私は何時でも何処でも何度でも、好きなだけあなたの相手になってあげるつもりでいるのに残念だわ」
答えるフィーネは突然今までの攻撃的な態度を一変させると、握っていた短剣を手放し実に愛らしい表情を浮かべて相手に身をゆだねた。
「……おい」
異変に気がついたレイヴァンは不愉快極まりないと言わんばかりに声を上げる。
短い言葉の中には「離れろ」という意味が溢れんばかりに詰まっていた。
殺気が消え失せ攻撃される心配が無くなった今、この状況は単純な男女の関係になっているのだ。
それも暗い山林の中で、相手は何をしても良い。むしろ何かしてくれと身体を預けてきている。
彼にとっては命を狙われた時よりも苦境だった。




