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「今日の戦闘において、あなたは二度過ちを犯した。 そのうち一度目は悪魔が間抜けだったから自ら好機を逸して何もなかったけど、二度目はブライトが身を挺していなければ間違いなくマリアンは負傷していたわ。 理由はあなたが一番解っているはず」
「相変わらず視野が広くて感心するよ」
「普段のあなたなら犯さない不用意な過ちを立て続けに二度も犯すなんて異常なこと。 そして今こうして三つ目の過ちを犯した。 これ以上この状態が続けば明日以降に今以上の支障が出てくるわ。 だから大事になる前に解決しておかないと。 ……マリアンとの間に何があったのか、話してもらえる?」
「実に遠慮がないな」
「これでも慣れない仲間ってのを相手に気を使っているのよ? 条件によっては協力してあげても良いわ」
「話したくないと答えたら?」
「自分が置かれている状況を解っているのかしら?」
「もちろん理解している。 絶世の美女に突然抱きつかれ、どう対処したら良いのか非常に頭を悩ましているところだ」
一瞬の沈黙の後フィーネは盛大に吹き出した。
「この状況で冗談を言えるなんて大したものだわ。 白々しい嘘にも程があるわよ。 それともまだまだ余裕があるのかしら?」
「余裕なんて無いさ。 短剣を突き立てられているんだ。 お世辞の一つでも言わなければ何をされるか解ったものではないからな」
「それを言ってしまっては意味がないわ」
「俺は気が利かない男でね」
「それなら教えてあげる。 美女に抱きしめられた時は、すぐに相手の腰に手を回して引き寄せるのが礼儀よ」
「短剣を突きつけられているのにか?」
「その時は尚更早くした方が良いわね。 相手の機嫌を損ねたら血生臭い惨劇を身を持って体験することになるわ」
「それは大変だ」
レイヴァンが言われたとおりの動きをすると指示を出した本人は驚き、何とも間抜けな声を漏らした。
「これは重症ね。 普段のあなたなら絶対に応じないのに。 不覚にも驚いちゃったじゃない」
「メフィストフェレスを討つまでは死にたくないからな」
「断ったとしても急所は外してあげたわよ」
「急所を外したとしても麻痺毒の塗られた刃を心臓近くに受けたら流石に厳しいと思うが?」
「あら、冷静に判断できる一面を残しているのね。 少し安心したわ」
「なら洞穴に戻ってくれないか? 明日も同じような道中になるだろうから、あんたにはしっかりと身体を休めておいてもらわないと」
「抱き合っているのに、つれないことを言うのね。 折角だからもう少し悦ばしてくれても良いんじゃない?」
「生憎そういうのは苦手なんだ」




