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ノアがその言葉に絶句したのは言うまでもない。
卒業がかかった大一番に挑もうとしているのだ、我に帰ると「それは困ります!」と慌てた。
「このまま進めば命の保証はない」
「ですが、お伝えしましたとおり僕にはどうしてもやらなければならない事があるのです!」
「その結果、死んでしまっては意味がないだろう?」
「ですが!」
ノアが必死に食い下がっていると、近くで話を聞いていたブライトが「だったら、そのトロールが出る道を使わずに炭鉱まで行けば良いんじゃないか? 俺たちの目的はあくまでも旧炭鉱に出るラヴァワームな訳だし」と助け舟を出す。
我ながら妙案だと得意げな表情をするブライトに向かってレイヴァンは冷静に首を振って答えた。
「俺が心配しているのはトロールの事ではない」
「……何、どう言う事?」
「お前はトロールの特徴を知っているか?」
「俺が知っているとでも?」
「聞いた俺が愚かだったな。 ……リノ、君はどうだ?」
ブライトが解らないと言うとレイヴァンは同行する女学生の彼女に同じ質問をぶつける。
突然話を振られ不機嫌そうに「何で私に聞くのよ」と答えるリノだが、一呼吸おくと自信に満ちた顔で「仕方がないから答えてあげる」と話し始めた。
「トロールはオーク同様に醜悪な容姿で知能も大して高くないわ。 凶暴と言うより粗暴なの。 でも、オークよりも巨大で、とても怪力だから厄介よ。 多少の傷ならすぐに再生するとも言われているしね」
「流石だな。 なら生態についてはどうだ?」
「生態ですって?」
リノが首を捻ると隣に居たアーシェが威勢良く「はいっ!」と声を上げ、真っ直ぐに右手を上げる。
その様子はまるで学校の授業さながらで、講義を始めるつもりなど毛頭なかったレイヴァンは思わず吹き出した。
「折角だから、代わりに答えてもらおうか」と短髪の彼女を指名すると、当てられたアーシェは元気良く返事をしてから答える。
「トロールは日光が嫌いで日中のほとんどを暗い洞穴で過ごし、夕方から夜にかけて活動します。 だからトロールの住処に近い場所では夜のうちに家畜を根こそぎ食い殺されたり、人が襲われたりして被害が出ます」
「そのとおりだ」
頷くレイヴァンは解ったかと言わんばかりにブライトを見る。
しかしながら、眼差しを向けられた彼は相変わらず理解できていない様子で「それが何だってんだ? そもそもトロールの心配はしていないとか言ってるのに何でトロールの話を?」と首を傾げた。
代わりに発言したのは、これまでずっと静観して話を聞いていたフィーネだ。
「その子の話に間違いがないとしたら、今の状況は矛盾することになるわね」
その一言は皆を気付かせるのに十分な一言だった。




