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「すまねぇ、ちょっと通してくれ!」
体格が良いブライトが先頭に立ち、断りを入れながら人垣を抜けると、輪の中心に居たのは人目を憚らず地面に腰を下ろす男だった。
十代後半から二十代に見える彼は行商の様で、呼吸を整えながら手にした水袋を何度も口へと運んでいる。
そして周りから何があったのかと聞かれる度に、忌ま忌ましそうな表情で「だから、炭鉱とサウスローの分岐路で馬鹿デカい悪魔が何匹も暴れてるって言っているだろう! 早いところギルドに伝えてハンターを派遣してくれよ!」と叫んでいた。
「まぁ、落ち着け、ギルドにはちゃんと走ってるよ」と周りの人々が言い聞かせている中、レイヴァンは彼の正面に立つと尋ねた。
「その悪魔の正体を教えてくれないか?」
「……見慣れない顔だが、ギルドから派遣されたハンターか?」
怪訝そうな顔をする青年に向かってレイヴァンは答える。
「生憎、俺たちは通りすがりの旅人だ。路銀を稼ぐため今日中に炭鉱へ行って仕事を終わらせたい」
「それは残念だったな。 命が欲しいなら今日炭鉱に行くのは辞めておいた方が良い。 分岐路に現れたデカい悪魔はおそらくトロールだ。 並みのハンターでも歯が立たない凶悪な奴さ」
「やはりトロールか」
「炭鉱に向かう鉱夫と、サウスローに出る俺たち行商を狙って三匹が集まっていやがった。 すぐに距離を取ったから分からなかっただけで、もしかしたらそれ以上の数が居たかもな」
「三匹以上……」
悪魔の数に思わず唸ったレイヴァンは傍に居るノアを見た。
そして真剣な表情で「残念だが今回は諦めるべきだ」と切り出した。




