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レイヴァン様か、ご主人様か。
二つを合わせたレイヴァンご主人様は思いの外長くて言い難いし……
腕を組み唸りながら洞穴へと戻っていったリル。
それを見届けたレイヴァンが一息つこうとすると、近くで新たな声が聞こえた。
「あんな小娘があなたにとって特別な存在だなんて嫉妬しちゃうわ」
視線を向ければ小さく波打つ黒髪の女性フィーネが木の傍らに立っている。
「私もこれからはあなたのことをご主人様と呼ぼうかしら。 ……もちろん、その際は毎晩たっぷりとご奉仕をしてあげる」
悪戯っぽく笑う彼女にレイヴァンは「従者が主導権を取ってしまっては、どちらが主人か解ったものではない」と溜め息を漏らした。
「何の用だ?」
「私もあなたと話したいことがあってね」
「その口振りだと、かなり前から話を聞いていたようだな」
「最初から小娘と一緒に居たわよ? もっとも、私は『気配は消した上で草木に隠れて』だけど」
「だとすると、いよいよ見張り失格だな」
「そうね。 だけど気にすることはないわ。 今のあなたより私が一枚上手なだけだから」
「妙な言い回しだな」
「そうかしら?」
言い終わるや否やフィーネは一瞬にして距離を詰めると、そのままレイヴァンの胸に飛び込んだ。
そして言葉を失った相手に向かって不適な笑みを浮かべる。
「私は事実を伝えているだけよ」
両腕を相手の背中へと回し強く抱きしめるその仕草は、久しく会うことが出来なかった恋人との再会を彷彿とさせたが、左手には不釣り合いな短剣が握られていた。




