喰折柱
同日 異界化グランド
倒れているジャスティスに急いで駆け寄る。あの針が何本も体を貫通していた。伊狩も横について励ましている。
「ジャスティス、しっかりしろ。何があった。」
「伊狩さんの浄化中に、あの蜘蛛みたいな怪物が襲ってきて、庇って針を受けたの。」
「それなら、針をすぐ壊さないとやばいぞ。」
また敵に操られると思い、針を抜きにかかると、恵美に止められてしまった。
「なにしてるの、抜いたら出血過多でショック死するんだよ。回復させながらじゃないと。」
「いや…その必要は…ない。創志よ…私は…駄目だ。この針は…私に特化した…毒の…ようだ。創…頼み…魂を…救って…れ。」
たどたどしく話しながら、指差す方を見ると卑猥な城の城壁に変貌し始めていた。
「もしかして、琴原があれに取り込まれたのか。」
「ああ。彼女を…助け…」
「待って、結衣ちゃんがあの中に居るの。」
伊狩が俺とジャスティスをじっと見つめながら尋ねてきた。
「たぶんそうだろうな。それにしても悪趣味な城だ。」
壁が作っていく凹凸を睨みながら伊狩に答えた。凹凸は女性の体を模していき、城の正面に顔のない四肢が完成する。バタバタと動く四肢からは、拒絶の意が伝わってくる。
「私に何か出来ることはありませんか。結衣ちゃんを助けたいんです。」
「後ろに隠れて祈ってろ。成仏できるようにってな。」
動いていた手足が垂れ下がったと思ったら、今度は艶めかしく動き始めた。足の付け根に手を持っていくと、秘部を撫で始めた。槍を持つ手に力が入る。
「お願いします。結衣ちゃんを助けたいんです。」
「いいから、下がってろ。今すぐあいつを解放してやる。」
そう言って、投げ放った槍は壁の心臓の位置へと飛んで行くも、蜘蛛の糸に絡め取られた。
「先にあの虎蜘蛛を倒す。メグは2人を安全な所へ、キー、蹴斗達に城相手の時間稼ぎを任せたと伝えてくれ。」
虎蜘蛛に向かって走り出すと再度呼び止められた。
案の定伊狩が、まだ訴えかけてくる。
「待って、死神さん。私も戦いたい、結衣ちゃんを助けたい。」
「だから、無理なんだ。それに、琴原だってお前に痴態は見られたくないだろう。」
急いでいるというのに、鬱陶しい。早くしないと魂の核が壊れるんだよ。
「私が…手を…」
どうしたのかジャスティスが伊狩のほうへ、弱弱しくもまっすぐに手を伸ばしていく。
「ジャスティス…何するつもりだ。」
伊狩が手を取ると、ジャスティスの体が淡く光ったあと、透けていく。
「ジャスティス、おい、何してる。」
ジャスティスは光の粒になり舞い上がっていく。頭上で留まったかと思うと、2つに分かれ、1つはそのまま伊狩を包んでいき、もう片方は校舎の方へ飛んでいった。
「キー、ジャスティスは…死んだのか。」
『分かりません、ただ…反応は消失しました。』
『いや、少女達の友を救いたいという気持ちに応えたくてな。最期に彼女らの力になりたかったんだ。』
ジャスティスは誇らしげに透けた体でこちらにサムズアップしてきた。
『さあ、君の友達を救いに行こう。創志はあの男を頼む。戦場は違っても私の最期の救済を手助けして欲しい。』
「最初からそのつもりだ。絶対に琴原を救ってくれよ。」
光は伊狩に鎧と、十手のようなものをもたらした。十手にしては長いきもするが、後のことは蹴斗達に任せよう。
虎蜘蛛男に向かって走っていると、金の騎士東条が戦っていた。
「瑛二さん、どうしてこんなことを。」
「一君は何も知らないんだね。まあ、言えないんだけれど。」
蜘蛛虎男はクスリと笑いながら、騎士の攻撃をただただ避けている。
「一君、もし人を生き返らせることができるとしたら…君はどうする。」
騎士は何のことか分からず呆けていたが、答えが見つかったらしくはっきりと答えた。
「それは、死者への冒涜だ。例え大事な人でも、その死を乗り越えていかなければいかない。」
蜘蛛虎男は騎士を、じっと見て今までと違いトーンを落として騎士に語りかけた。
「一君は強い、俺には無理だね。チャンスがあるなら何を差し出しても良い。もう一度会いたい。」
「それが祭か、外道。」
蜘蛛虎男の思いを遮るように2人の会話を断つと、何故か金騎士の方も反応してきた。
「どうして、君が祭姉さんを知っているんだ。」
「それはね、彼が彼女を変えた人なんだよ一君。俺らにはできなかった、祭に希望を持たせることが出来た人だ。婚約者の俺を差し置いてね。」
「それより、お前が早乙女に龍になる物を渡したやつなのか。」
「そうだね。データが欲しくてね。ついでに、毒島に渡したのも俺だね。ああいう使い方は思いつかなかったけどね。」
金騎士は俯いていたが、どうしてそんなことをと聞きたそうだった。
「一君、上手くいけば祭が蘇るんだよ、神になってね。勿論、その時隣に居るのはこの俺だ。神郷お前達じゃない、婚約者のこの俺こそが神の伴侶となり、人を導いて行くのだ。」
金騎士は怒っているのだろうか、ガタガタと震えていて、今にも飛び出しそうだ。しかし、疑問が残る。
「おい、祭は死んでいるのか。俺はここ1ヶ月で2度ほど会って話してるぞ。」
「どういう」
金騎士が言い終わる前に蜘蛛虎男が答える。
「それは精神世界、異界の中だ。会話が出来るということはもう少しか。後は毒島に任せるかな。」
逃がすつもりは無いので、銃を撃ちながら突っ込んでいく。
「本当に邪魔だね神郷。でも、俺の相手をしていて良いのかな。早く助けないと、彼女“も”救えないよ。」
蜘蛛虎男は移動のため後ろに空間の裂け目を作り掻い潜っていく。
「東条、蹴斗達を頼む。」
逃がすつもりはさらさらなく、閉じかけた裂け目に躊躇無く飛び込んだ。後ろから静止を求める声が聞こえた気がした。
裂け目を潜るとこの前あの蜘蛛虎男と戦った異界に来たようだ。ただこの前と違い、針山の緩衝でなく針山の中だが。敵の姿を探すも、薄暗く視認できなかった。しかし、相手はこっちに気付いているようで挑発を仕掛けてくる。
「追ってきたのかい。それにしても君も酷いやつだね。毒島に取り込まれた何だったかな…まいちゃんだったっけ、救わず見捨てるなんて。」
「伊狩なら、琴原が救えるし、お前を倒してからでもお釣りがくるぞ。」
挑発に挑発を返しながら、聞こえる方を探していくが、針山に反響しているせいか敵の居場所が掴めない。移動する声を集中して聞き分け探り続ける。
「神郷創志、お前はやっぱり駄目だ。俺を差し置いて祭に会うなんて、祭が起きるのも時間の問題のようだし、消してやるよ。この魔神バールの力でね。」
声はすれども姿が見えない、それにバールってどんな力持ってるんだ。何となく敵が近付いてきているのは分かったので、武器を1度展開する。槍にぶつかった感触があった。姿が消せるのだろうか。
「時間もないんだ。本当はいろいろ効きたいことがあったが…もういい。」
大鎌を両手で持ち、腰を落とし力を込めていく。展開していた武器が1つ1つ消えていった。
「一撃に掛けるのか、もうちょっとましな考えは無かったのかい。所詮その程度だったんだ。神郷、やはりお前は相応しく」
大鎌を一閃させると、少し遅れて衝撃波が吹き荒れる。周りの針が折れ飛ばされる。風が吹き止むと辺りに針山が見えなくなり、10m先に蜘蛛虎男が体中に針を突き立てた前衛アートのように転がっていた。
「何故だ。どうして俺が勝てない。バールだぞ、ソロモンの第1柱なんだぞ。魔神の力を手にしたこの俺が、まさかこの力偽物…あず…うげっえぇっ」
ぶつぶつ何か言ってるバールに尋問しようと思っていたら、急に呻いて転げ始めた。
「おい、どうした。」
急いで駆け寄って見ると、皮膚の下を何かが這いずり回っていた。
「ぐあぁ、痒い…あぁっ、痛い。」
腕や顔の見えるところが、膨らんだり凹んだりせわしなく蠢いていき………破れた。赤い血が滴り落ち始めると同時に、黒い何かが肉を喰いながら出てくる。次第にバールを黒い何かが覆っていく。第2形態へ変身するかもしれないので、銃を取り出しありッたけの弾丸を撃ち込んだ。撃たれたバールは呻きながら、ビクビク痙攣している。
「何が起こっているんだ。」
体を覆っている物はやはり、表面を動いている。バールの呻き声が聞こえなくなり、体が動くだけになった。蠢く塊は徐々に小さくなっていく。よく見ると黒く小さい塊には、羽があった。
あれは、蝿か。
蟲とは厄介だと思い距離を取ると、蝿はそのまま上空へと飛んでいった。飛び立った後には、骨しか残ってなかった。逃げたのか、口封じされたのかは分からなかった。
「キー、あの蝿はバールが変化したものだったのか。」
「いや、違うよ。」
キーが答える前に空から回答が返ってきた。
『創、本体はここにいないようです。』
「1度君を見ておきたかったからな。それにしても、西山、バールのことだがすまなかった。勝手に暴走してしまって、形態変化も出来ないのに力を扱えると勘違いしてたからな。この騒動もこちらの本意ではない。」
「あんたらはいったい何がしたいんだ。」
少し上の所を旋回している蝿の群れに向かって話しかけた。
「簡単に言うと、祭を生き返らせたい。君にとっても悪い話じゃないだろう。活動限界か、返事は今度訊きに来る。考えておいてくれ。」
会話が終わると同時に蝿が燃えて消えていった。
「祭さんを生き返らせるって。」
『創、生き返らせるのは禁忌ですよ。それより蹴斗達の下へ戻りましょう。」
もやもやしたまま、援護に戻った。
異界の中の学校に戻ると、城が形を変え、くすんだ男根の上に女性のような何かが跨っているものになっていて、雌型の何かには表情というか顔のパーツも無かった。それが網のようなものに絡め取られていて、かなり気持ち悪かった。
這うように網から脱出を試みているそれの前に2人の生徒が立っていて、1人がハープのようなものを弾きだした。途端に網が波打ち小さくまとまっていく。恐らくあれは琴原響だと思う。その隣の馬鹿でかい音さを持っているのが、伊狩のようだ。伊狩が音さを突き刺し弾くと、2人の姿が消えた。琴原の精神に入れたのだろう。
2人が琴原に本当の別れを済ませて帰ってくると、醜悪なオブジェも消え去った。毒島は完全に取り込まれていたのだろう、帰ってくることはなかった。




