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助言*

2話投稿の1話目

自分ができる限界の甘さ

???  ???  どこかのグランド


 目の前のグランドは荒廃していて、整備しないと使えなさそうだった。土は固そうで、雑草も伸び放題だ。私が私を取り戻すと、前の私から変わっていくのが分かる。最初の方は、温かい気持ちになれたが、今では、今の私が消えていくのでは…という恐怖もある。ただ、取り戻すたび、彼との思い出が蘇るのは嫌じゃない。


 それに、私を取り戻していくたびに活動できる範囲は広がっていくが、今までの世界が荒んでいく。さすがに壁や床を修復できる技術は持っていなかったので、病院はひびが目立つようになった。彼が来るまでは持って欲しいと思う。



 グランドの中に入っていくと、サッカーのコートが出来上がっていた。でも、コートの中には入れないようだ。見えない壁が、私を拒んでいるようだった。他にそれといって変哲も無さそうだったので、背を向け違う場所に向かおうとすると、ドサッっと何かが倒れる音が後ろからした。


 後ろを見ると、一番会いたい人が居た。倒れてはいるが、怪我は無さそうで少し安心した。ここに来ている時点で、本来の彼は危ないというのは分かっているのだが、会えて嬉しい。それに、ここに来れたという事は、帰れるということでもあるので、深く心配する必要もないと言われた。見えない壁を叩きながら、少年と何度も呼ぶ。彼が起き上がりかけたので、私は私の仮面を被る。


 起き上がった少年は、フラフラと覚束無い足取りで近付いてきた。私は嬉しさを隠し、おどけたように話しかける。

「少年、来るのが早すぎるんじゃないかい。お姉さん、心配になってきたよ。」

彼は顔を見られたくない様で、壁に寄りかかり向こうを向いて座った。彼は何かを呟いていた。

「今回は話せる用だぞ、少年。お姉さんが聞いてあげよう。」


「俺は、人を殺しました。強くなったのに、助けられなかったんです。殺すことしか出来なかったんです。」

彼を抱きしめて大丈夫と慰めたかったけれど、壁のせいで出来ないことが、歯痒い。彼の独白は続いている。

「向こうが、死にたくないのを、我慢して、殺してくれって。恐いのを我慢して、痛いのを我慢して、最後にありがとうって、俺情けなくて…鎌をひいて切り離した時の感覚が残ってるんです。相手の痛がってる声が、離れないんです。」

背中合わせのまま、今度は私が彼に問う。

「それでも、その人は自分から殺してくれって言ったんでしょ。覚悟はしていたんじゃないかな。」

自分と似た境遇で、死を選んだ人が居て、彼を傷つけた人に嫉妬し、仮面が剥がれかかる。


「違うんです。殺すことも嫌だけど、助けられなかった自分が一番嫌で、結局、自分の為なんです。何も出来なかった自分が嫌なんです。」

彼が苦しんでいる。

「でも、君は、その人を別の苦しみから解放したんじゃないのか。私も、死にたくて父様に延命治療を辞めて欲しいと、願った時期がある。理由は何だと思う。」

背中の方がわずかに動いた気がした。そして、彼は無言のままだったので構わず続ける。


「病気がつらい、体が痛い・動かない、家族の重石になっているのではないかという不安、これもあるけれど、1番は存在したくなくなるんだ。私が存在することで誰かを傷付けるのではないかとか、もう終わりにしたいと思ってしまうんだ。この悩みから解放されるには、考えないですむようにするしかない。」


「それに、その人は、『ありがとう』と感謝したのだろう。それなら、君は、その人の最期の願いを叶えたんだ。それで立ち止まってしまったら、その人が悔やむんじゃないのかな。」

彼の方から、嗚咽が聞こえる。

「それでも気に悩むなら、今出来ることを全力でやって、そして悩めばいい。悩んだままでは、大事な時に失敗してしまう。終わってから反省するのも良いかもしれないな。」


やはり背中の方が動いている。後ろを見ると壁がいつの間にか消えていた。後ろからそっと抱きしめると、彼はモゾモゾと動いて、泣き顔を見せないようにこちらに頭を向けた。頭と背中を撫でてやる。少しだけ彼の声が大きくなった気がした。


 彼から光が溢れて私に入ってくる。回収作業を始めたわけではないのに、出てきた光は優しくて恐くは無かった。彼を撫で続けながら、充実していく。私が芯から回復していく感じがした。最近の無理矢理外から押し固める感じと違って、心地よかった。


 彼は泣き疲れたのか、眠ってしまっていた。私の膝を枕にして、髪を撫で続ける。そういえば、完全ではないといえ、私の記憶の中の彼は、人前では絶対に泣こうとしなかったし、いつもツンツンしていた。ちょっとずつ懐いてくれていたのは、分かっていたがここまで身を任せてくれると、何か達成感のようなものがある。


 不意に彼が寝返りを打って、仰向けになった。彼の顔を見つめていると、彼の顔がどんどん視界に広がっていく、後10cm位でゴンッっと鼻を何かにぶつけてしまって痛い。私は今彼に何をしようとしたんだろう。私は、自分の行為を思い返して、恥かしくなった。


 私が1人悶えたせいか、彼が起きてしまった。彼と目が合うと、彼は驚いて、飛び起きてしまった。

「ごめんなさい。病院のお姉さん。勝手に寝たうえに、膝まで貸してもらって。」

彼が珍しく顔を赤くしながら、急ぎ言っている。

(まつり)、夏祭りとかの祭で、祭。それが私の名前よ。今度からは、祭って呼んでね。」

「祭お姉さん、迷惑かけて、ごめん。」

彼が謝ってきたが、別のことが癇に障る。

「お姉さんは要らないわ。祭って呼ぶこと。それに少年、君の名前を教えてもらえないかな。」

「俺は、神郷創志です。神様の神に、故郷の郷、創造の創に志すで、創志です。」


 もう一度抱きしめようと近付くと、壁が邪魔して触れられなかった。

「抱きしめられないみたいね。創志君、辛かったら、逃げてもいいからまた会いましょう。」


「祭さん、俺はもう逃げません。悩むのは後にして、今出来ることをやるようにします。祭さんみたいに、いろんな人を助けられるように、これからは祭さんとの約束を守って待ってます。」


 彼は約束を思い出したようだ。

「でも無茶しちゃ駄目よ。後、さんも要らないから。」

戻っていく彼に手を振りながら、答えた。



 彼が消えた後、グランドを見渡すと、グランドは整備された綺麗な状態になっていた。記憶は完全ではないが、私は彼の名前を知っていたようだ。何度も転院し、結局父様のグループの病院に戻ってきて、もうどうでもよくなったときに、彼を見つけた。買って貰った天体望遠鏡を、昼間に使っていたら見つけた私の星。


 やはり、彼が好きだったことが分かって私は凄く嬉しかった。父様も私が回復していると言ってくれているし、本当の世界でももうすぐ会えるはずだ。私はご機嫌に散策を再開した。





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