伝導者
5月2日 午前9時半 住宅街西側
昨日は結局、あまり収穫もなかった。反応があった場所に行っても、シンクの残骸から相手は打撃というか素手で戦うことが分かったくらいだ。その後、自宅に帰りG.W.中もそっちの家に帰らないと奏に伝えた。奏は諦め切れなかったのか、3通程メールが再度届いたが返信しなかった。正直あの家には居辛い。家族との距離感がうまく掴めない。モヤモヤしたまま公園に向かった。
公園にはすでに正義が赤のジャージを着てアップを始めていた。こちらから挨拶をすると、元気に深々と礼付きで返ってきて、散歩中の人達から注目されて少し恥かしかった。
「創志さん、もう少ししたらあいつらが来るんで、それまで待って下さい。」
「ああ、分かった。」
少し体を動かしていると、正義が話しかけてきた。
「創志さん、噂の白いヒーローって知ってますか。」
昨日のトラック事故のことかと逆に聞いてみた。
「何ですか、それ。とにかく、俺、見たことあるんですよ。そのヒーローを。」
暇つぶしにはなると思って聴いておく。
「俺が見たのは、横断歩道を渡るお年寄りを担いだり、ゴミ捨てのルール守らない人に注意してたんですよ。あと、喧嘩の仲裁とかもしてて、今、しれっと有名になってきてるんですよ。」
「それって、町興しのイベントか何かか。」
地域のヒーローみたいなやつか、警察とかじゃないと思うけど。
「いや、それが個人みたいなんですけど。顔も知らない謎のヒーローってテレビ局も探しに来たし、警察からも礼がしたいので名乗り出て欲しいって、新聞記事に載ってましたよ。」
「立派な人が居るもんだな。」
たわいない世間話をしていると、約束の10時になった。
公園の入り口から小さな影が2つ近付いてくる。昨日見たあの2人だった。
「義兄ちゃん、間に合った。」
「おはようございます、正義お兄ちゃん。」
2人が元気良く挨拶をする、また周りから注目され、ちょっと恥かしかった。小声で正義に、小学生に教えていたのかと尋ねると、そうですと普通に返された。せめて中学生位だと思っていたのに。
2人と目が合う。男の子は興味津々で見てきて、女の子は男の子の後ろに隠れてしまった。
「ねぇ、義兄ちゃん。隣の兄ちゃんは誰。」
しゃがんで目の高さを合わせて、自己紹介をする。
「俺の名前は、神郷創志。漢字はまあ言わなくて良いかな。正義の友達だよ。よろしく。」
男の子と握手すると、自己紹介してくれた。
「俺は、英雄って言います。五年生です。えっと、兄ちゃんが、義兄ちゃんの言ってた凄い人なの。」
5年生…保護者居なくて大丈夫かなと思っていると、英雄君の口から変な言葉が出た。正義を見ると、目をキラキラさせながら言い切った。
「そうだ。英雄、この人が俺の師匠だ。」
何をこいつは言ってるんだと、見ていると服を引っ張られた。
「私の名前は、神矢聖菜です。」
「んっ、ああ、よろしく。」
自己紹介が終わるとまた英雄君にくっついた。
英雄君の準備体操見ていると、体が柔らかいことが分かった。股が180度開いて、足の裏まで手が余裕で届いている。準備体操を終わらせると、正義と簡単な組み手を始めた。寸止めとはいえ、はたから見ると、高校生が小学生をいじめているようにしか見えないので、そこでストップをかけた。
「正義、教えてる時ずっと組み手してたの。」
「簡単な防御を教えてからは、ずっとこれでした。」
正義がなんかやっちゃったかという顔で見てきた。
「周りの人から、小学生に何やってるって言われなかったか。」
「言われたけど、俺が強くなるために教えてもらってるって言って、パンチは当てないようにしてくれてるって言って見せると、怪我しないようにって続けさせてくれたぞ。」
英雄君が答えてくれてやっぱりと思ってしまった。
「正義、見た目と年齢を考えろよ。」
そう言って、軽く頭を叩くと小学生2人から兄ちゃんは悪くないと攻められた。
「だから、創志さん、何か手はないかと相談なんです。」
その場で聞くだけですむだろうと思ったが、ここにきたいじょう考える。
「正義、防具とか」
「持ってないです。」
持ってないか、期待してなかったけど。近くの道場なり、ジムなり紹介してやろうと思ったが、英雄君は正義に習いたいようだ。何かないかと辺りを見渡すと、誰も居ない砂場を見つけた。
砂場へ4人で移動する。聖菜ちゃんはブランコに腰掛けてこっちを見ている。俺が砂場にあった小石を取り除いていると、正義が相撲ですかと聞いてきた。
「違う、違う。ここでゆっくりさっきと同じことをやってみな。ゆっくりだぞ、ゆっくり。」
3人から何言ってるのこの人という目で見られた。
「分かったよ。やって見せるから。正義、俺の攻撃を捌き続けろ。」
正義を砂場の中に呼ぶ。
「倒れたり、クリティカルヒットしたり、出たら負けな。」
そういってゆっくり左手を出す。右でガードされると同時に、右を出す。右を内側に払われたので、そのまま回転して裏拳を入れようとする。止められると、逆回転し右手の小指側当てにいく。正義が右腕でガードし、連続攻撃の流れを断ち切られた。
「こんな感じで、攻撃側は次の攻撃が難しくなったら負けかな。防御側は止められなくなったり、倒れたら負けだな。」
説明をしていたら、英雄君も正義も師匠を越えたねなどと、はしゃいで聞いてなかった。
『ドリムの反応を感知しました。5分程で来ます。』
近付いてきているのか。
はしゃいでいる2人を止め、英雄君の高さに合わせ、目を見て尋ねる。
「そういえば英雄君は、聖菜ちゃんを助けるために強くなるんだよね。守りを強くしてどうするの。」
「父さんが、こっちから叩いちゃ駄目って言ってたから、守るだけだよ。」
即答だった。
「2対1とかじゃ守れないだろ。」
「守れるよ。」
「……3対1とか4対1でもかい。」
英雄は唸っている。
「守ることになったら、まず何をしなきゃいけないか分かるかい。」
「聖菜を逃げられるようにすること。」
首を傾げるように英雄君は答えた。
「聖菜ちゃんは何だと思う。」
聖菜ちゃんは、うーんと唸って分かんないと答えた。
「答え、助けを呼ぶだよ。君達は小さいから、まずは強くなるより、“助けて”とお願いするべきだよ。」
「助けてくれなかったら。」
「そこから、守るんだよ。まずは、助けを呼んで、それから守るんだ。良いね。」
英雄君がうなずくと立ち上がり、正義を呼ぶ。
「正義、そろそろ時間なんだ。お昼だし、2人を連れて飯でも食ってこい。」
財布から5千円渡し言う。
「創志さん、もらえませ…顔恐いですよ。何かあったんですか。」
「俺がお金余ってるの知ってるだろ、いらないなら今度会った時返してくれれば良い。急いでここを離れろ。」
正義は俺も闘うと言いたげだったが、2人の方に目線を向ける。
「正義、俺が負けると思ってるのか。子守りを頼むぞ。」
そう言って、肩を叩く。正義はうなずいて2人を連れて公園から出ていき、公園から俺以外が居なくなった。
目をつぶって集中し、キーに確認する。
「キー、目標はこっちに向かって来てるんだな。」
『はい、正義さんを逃がした時に、一旦そちらに向かおうとしましたが、こちらに向かって来ています。もうすぐ見えます。』
見えてきたのは、戦隊ヒーローのような格好をした人だった。
世界が歪み始め、公園が白く染まっていく。
「子供を苛める不届き者が居ると聞いてやってきたが、そうではなかったようだな。」
急にヒーローの格好をしたドリムが話しかけてきた。
「苛められている子供を守る子供に道を説くなど、なかなか見所があるな少年。」
青年の所で親指を立ててきた。それにしても聞こえてたのか。
「キー、やっぱりあれがドリムなのか。」
『はい、ドリムの反応は検出されるのですが、汚染度が0なんです。』
「汚染度って。」
『ドリムやイデールは生まれた瞬間から汚染が始まり、D-egradation・C-orrupt・R-uinの順番で進行していき危険度も跳ね上がっていきます。なのであのドリムは危険度が今のところ低いのです。』
今は危険じゃないのか、いずれ危険になるなら、今やるしかない。
「話をきいているのか、少年。」
腰に手をあて顔を少し前に出して聞いてきたが、無視してスタイルを起動させる。
「Style change Striker CODE fight 」
黒の戦闘着を身に纏う。フードを深く被りなおし敵を睨みつける。
「それにしても、この私ジャスティス・ホワイトを探していたのは君だったのか。そして、戦いたいようだな。良いだろう打って来なさい。君の思いを、悩みを、拳に乗せて打って来い。」
また親指を立てて大声で言ってくる。
右のジャブをフェイクで出すがノーガードのまま反応しない。腕を引くと同時に、左フックをレバー突き刺す。ぐっ、と漏らして出てきた顎に、掬い上げるよう掌底を入れると、白タイツはよろめき後ろに倒れた。
「ノーガードってふざけてるのか。」
不意に零れた言葉に立ち上がった白タイツが答える。
「君の拳は軽い。悩む君の拳は本当の力を失っているんだ。そんな拳では、私を倒せないぞ。」
舌打ちして距離を詰め、左からのラッシュに入る。しかし、今度は全て捌かれる。有効打が入らない、そうこうしているうちに、掠っていた攻撃もだんだん当らなくなってきた。ついには攻撃に入ろうとする始点を邪魔され始めた。
「Style change Samurai CODE speed 」
離れる瞬間スタイルを替え、引き斬りにいくが、刀は体を通り抜けた。
「悪を斬る刀とは、いい刀だな。しかし、使い手がこれでは、力を発揮できんな。さあ、どんどん打って来い。」
ふざけやがって、スタイルをこっそりファイターに替えアウトボクシングのように攻める。ガードが上がってくると、ローを飛ばす。上下に散らし、有効打はなくとも攻撃を途切れさせず打ち続ける。連打の途中で、左スマッシュに見せかけて組み付き、左足を取って倒しにかかる。
敵は押してもびくともしないので、持ち上げる。すると、足を絡めてきたので、パワーボムのように叩きつけた。1回、2回と叩きつけるが、足の力は弱まる所か、さらに強くなっていった。3回目に入ろうと痛みを我慢してさらに高く振りかぶると、急に足を解かれ投げられた。受身を取りつつ距離を取る。脛に残る感触から恐らく体落しだと思う。
やつは、腰に手を当てるポーズを取ったまま堂々と立って喋る。
「君の悩みが、なんとなく分かってきたぞ。過ぎた力で犯した過ちの処理が出来ていないようだな。君が
打ち込む拳から迷いが、後悔するのではという不安が伝わってくる。私はヒント位しか与えられないが、これを機に成長するのだ。」
また、サムズアップしてくる白タイツに、怒りが沸きあがるが堪える。今度からは攻撃してくるようで、スタイルをストライカーに戻し、カウンター狙いに切り換える。
「ジャスティーース」
腰に溜めているやつの拳が光り始める。
「パンチ」
やつが拳を突き出した瞬間、銀の光弾が全身を襲った。避けられないと思い、後ろに飛んで、派手に転がり衝撃を逃がす。
「耐えたか。」
白タイツは満足そうに頷いている。
『一度撤退をするべきです。』
「いや、彼はここで成長させるべきだよ。彼を守護するものよ。」
キーとの会話が聴かれている。
「安心したまえ。私は彼を死の一歩手前まで連れて行き、扉の向こうへ連れて行くだけだよ。少年はどうなるか知っているのだろう。勿論、君の危惧する夢の破壊は起こらないよ。ここは私が支配する空間、ヒーローの私が迷う者を導く場所なのだから。」
白タイツが続けて言い切った。
「キー、俺からも頼む。あのふざけたやつに1発入れないと収まらない。」
キーに、自分からも頼む。こっちの心うちを読み取るが、悪用してこないあいつは、何か信用できる気がする。負けるつもりはさらさらないけれど。
「Style change Samurai 」
ただのサムライに切り替える。
「キー、一撃入れたら離脱で、頼む。」
「覚悟が決まったか、少年。私も本気でいくぞ。」
白タイツは天を指差し、その後は訳分からないポーズを取っていき叫んだ。
「我が光は、悪を浄化し、弱気を導く聖なる光。ジャスティスホワイト見参!!!」
さらに、いろんなポージングが続くが、待ってられないので斬りに行く。
「集いし光よ、我に導く力を。ジャスティスホワイト・ライトニングモード」
タイツの上に胸当てと肩の鎧が装着されている。
「あせるな少年、導きの時間だ。いくぞ、ジャスティススピリット・オーバー・ストライク」
俺のほうが速い。
刀と拳が速さを競う。
「見事だ。少年。」
白いヒーローの呟きが聞こえた。




