噂の白いヒーロー
短いです。
5月1日 異界1層
そこは病的なほど白く、整理された空間だった。道は全て直線で、一定の間隔で縦横に敷かれている。全く同じ家も同様に一定間隔で並んでいて、ナビが無ければ通ったのかどうかが分からなくなる。
核の元を探して異界が発生してから探しているが、核どころかシンクさえも現れなかった。もしかしたら核はもう寄生していたりするのか。探すためにただただ走っていたが、ペースをさらに上げようとする。
『創、もしかすると今回の敵はドリムかイデールかもしれません。』
キーが発した聞きなれない単語を、詳しく聞こうとペースを上げずに走る。
『イデールはドリムの進化なので、ドリムについて話します。ドリムは人の夢から出現します。これらは、オープ達と違い、核の必要なしで行き来できます。そして、ベースの為に活動を開始していきます。』
「核を取り込んだり、殺してしまうようなことはないよな。」
今一番不安なことを聞いておく。
『いえ、ドリムは基本的にベースに危害を加えません。自殺や自傷の願望を持たない限りは…ですけれど。ただ、周りを傷つけることは多々報告があります。』
今度は核を殺さなくて良さそうで、ほんの少しだけ安堵した。
「そしたら、戦う場所が異界じゃない時はどうするんだ。」
『こちらで空間を異界化することが出来るので安心してください。』
「でも、向こうに行ってる間にこっちで襲われる人は居るんじゃないか。」
まだ1体も見つけていないが、念のため聞いておく。
『異界が出来て4日立ちますが、迷い人やシンク等の反応が出ない方が異常です。それに創は少し休むべきです。』
創と呼ばれるようになって4日経った。キーから、マヤが俺の体を使って核を壊そうとしていたことを聞き、あの感情は貴方のものではないと言われた。マヤが信用できないので、私だけにサポートさせてほしいとも言われた。俺はキーを選択し、キーは俺を創と呼ぶようになった。
でも、少なからずリリスを壊してやりたいと思う意志が、俺にはあったと思う。それ考えたくなくて、蓋をして、異界のことだけに奔走している。
『創、聴いていますか。』
「ごめん、聞いてなかった。もう一回お願い。」
ちょっとでも休むと、これだ。あれが思い返してくる。
『やはり、休んだ方が良いのでは。』
顔には出ていないと思い、大丈夫だと返事をする。
『それでは、一度外。現実を捜索しましょう。勿論、こちらで迷い人の反応が出れば教えますよ。』
「敵反応もだ。キー。」
もう、後手に回って手遅れになるつもりはない。
同日 午後5時前 住宅街西側
異界から現実に戻って行く当ても無くただ歩く。2人組みの男女の小学生が横を通り過ぎていき、ほどなくして女の子のほうが倒れた。男の子が駆け寄って慰めて、泣くのを我慢して立ち上がりまた駆け出していった。
『創、気付きましたか。今の男の子は、あなたが、異界から助けた子ですよ。貴方は誇っていいのですよ。』
優しくキーに言われ、少し泣きそうになった。俺は奪うだけじゃなかった。ほんのちょっとだけ、ちょっとだけ許された気がした。今の顔を見られたくなくて、フードを深く被りなおして歩き出した。
そのまま歩いていると、横から声をかけられた。
「創志さん、来てくれたんですね。」
声の方をむくと、公園から正義が手を振っていた。見つかった手前、無碍に出来ず公園に入る。
「すみません。あいつらはもう帰っちゃったんでいないんですよ。」
どうやら入れ違いになったらしい。
公園内の自販機でジュースを二本買って、オレンジジュースを正義に渡す。
「それより、誰と誰を鍛えてるんだ。」
「ありがとうございます。鍛えてるわけじゃないですよ。創志さんと一緒で、攻撃の受け方、いなし方を教えてるんですよ。」
そういえば、昔、喧嘩を教えてくれと正義につきまとわれて、結局攻撃の仕方は何も教えず、防御の仕方だけ自己流のやつを教えていたな。
「攻撃を教えてくれとは言わなかったんだ。」
感心しながら正義に尋ねる。
「そうなんですよ。英雄って言うんですけど、『闘うのは駄目だから、守れるようになりたい。』って言って攻撃をしようとしないんですよ。闘うのはほんと最後の手段みたいで、俺が見つけたときも、聖菜の盾になりながらボコボコにされてましたからね。助けたら、懐かれちゃって今に至るんですよ。」
「その英雄君はすごいやつだな。それにしても闘うのは駄目か…誰かさんとは大違いだな。」
笑いながら隣の肩を何度も叩く。
「そんな面倒なやつに教えてくれた、創志さんには感謝してますよ。明日は10時位から始めるんですけど、創志さん、良ければ来て貰えませんか。」
携帯で予定を確認しようとすると、メールが何通も溜まっていた。
奏・蹴斗・蹴斗・紅・・・メール画面を閉じた。
着歴は奏だけ、後で良いか。
「10時か…良いよ。正義先生がどう教えてるか気になるしな。」
一応午前中は学校があるが、行く気になれないのでサボってしまおう。
礼を言う正義と別れて、探索を再開する。
「キー、今思ったんだが、手がかりとかそういうのはないの。」
期待せずに取りあえず質問する。
『データが不足しているので、反応待ちですね。私も思ったのですが、無駄に歩き回っても体力を消費して無駄じゃないですか。』
「……いや、ウォームアップだと思えば。」
何も考えないですむように走り回っていたとは言えない。
「今日は帰るか。キーは索敵よろしく。」
誤魔化すように提案した。
『何かあれば伝えるので、気にせず、気を付けて帰ってください。』
分かってるよと呟いて帰路に着いた。
帰り道の交差点に野次馬が集まっていた。どうも事故があったらしいが、被害はトラックの正面が凹んだだけですんだようだ。白い戦隊ヒーローのような人が、突っ込んできたトラックを素手で止めて、大事に至らなかったと、聞こえてきた。そのヒーロー“ジャスティスホワイト”は、怪我人が居ないことを確認し、トラック運転手に注意した後、『助けを呼ぶ声が聞こえる。』と言って去って言ったらしい。
『あの、反応が検出されました。』
キーの声が、どうでも良い噂から引き戻した。人ごみ溢れる交差点から離れ、人の少ない路地へ行く。
「異界か、転送はいつでもしていい。」
辺りを確認して伝える。
『消えました。ドリムですが…現存する級分けで判断できません。そして、シンクの反応が検出されると、ドリムがむかいすぐ駆逐したようです。』
「とりあえず異界に行ってみようか。」
キーに転送してもらい、シンクが現れたところに向かった。




