† 運転手やらジジイやらババアやら †
いつものようにバッチリ爆睡☆ 枕が替わろうが知らない土地だろうが自殺旅行だろうが関係なくお構い無しに眠れる私・・・・・・グッジョブ!
シャワーを浴び、メイクも完了♪
今日もサクッ★ と死に場所探し&観光に出発しますか! なんて朝からの清々しさを吹っ飛ばし、憂鬱にする問題発生。
女って本当に・・・・・・・メンドクサイーーーーーーーーーーー!!!
あーーーもう! ・・・・・生理が・・・生理が来ちゃったよ! こんな時に限っていつもより早すぎだっつーーーーの!!!
もう、本当に・・・・・・生理が来る前に逝く予定だったのに! 一応用意くらいはしてあるけど・・・ヤダヤダ!
気分はダウンしましたが、だからと言ってだらだらうだうだしている暇は私にはないのだ! このホテルの滞在期間は今日を含めてあと2日。
その間にどこか良い死に場所を! 吊り場所を!
昨日早くも候補に出会えたのもあり、生理だけど早々に気を取り直して元気に出発☆
「おはようございます! お部屋のお掃除どうしますか? 」
「これから出掛けるのでその間にでもお願いします」
「分かりました。では、お気をつけていってらしゃいませ! 」
「はい! あ、そうだ! ○○大社へは電車とバスだったらどちらの方がいいですかね~? 」
今日も『観光』アピールを欠かさず放つ!
しかも本当に行ってみたかったから表情も自然と明るくなる。交通手段を聞きいざ出発~♪
あら? なんだか雲行きが怪しいわ~。どんよりして来たわ~。
雨・・・降るのかしら?
降っちゃうのかしら?
雨は勘弁して下さい!!!
バスは来ていた。
乗客なし。
電子カードでピッ♪ 一律いくら・・・ではなくて、後ろから乗って乗車券を取るやつです。
ああ~値段が上がっていくやつなんだ。
視力が低い私、前の方に着席。財布の中の小銭を確認。いくらかな~?
さて・・・・・・・・いつ出発するのかな? 運転手も降りたきり戻って来ません。
私1人バスの中。
どのくらいだったか、無人のバスの中に私ただ1人で放置プレイ! 20分くらいは確実にボーーーっとしていたよ☆
ホテルのあるこの駅から○駅まで行き、そこから電車で○○大社まで・・・・・・スゲーぞおい! ○駅無人だよ! 小じんまりし過ぎだろ?! って感じです。
券売機も見当たらない。これまた誰1人いない。
時刻表・・・っていうか券売機・・・。小さ過ぎる駅をキョロキョロ・・・少々不安になってきた35歳。
熟女は臆病な生き物ですっ!
「電車は来ないよ・・・」
うわお?! ・・・・・・ビックリした~。臆病な生き物だって思ったばっかりだってーの!!
後ろから声が聞こえ振り向くと、いつから居たのか爺さんが薄暗く隅っこにあるベンチに腰掛けていた。
「電車、来ないんですか? 時間の問題でしょうか? 」
「いいや~。まぁ、年内はムリだろうね。来ないよ」
「は? 年・・・・・内? 」
年内って? ・・・・・・ああそうか・・・・・ボケてんだな・・・。
徘徊老人かしら? お家の人達心配しているのでは? ホラホラ爺さん、早く帰って安心させてあげなさい! わたくし、こんなところでボケ老人と悠長に話している暇はないのですよ☆
「ところで切符はどこで買うのでしょうか? 」
「ほれそこに、お姉さんの左前にある・・・」
コレ?! ええっ!!! 視界には入っていたけれど、まさか券売機とは思わずスルーしてました。
だって・・・まれに見かける『楽しい家族計画♪ 』の自販機みたいな・・・・・・『コンドーム』の自販機がまさか券売機とは思いもよらないでしょう?! 田舎って堂々としているわ~・・・とか思っていました☆
わたくしったら本当に・・・アホですね!
「電車は来ないよ。年内はムリだろうね・・・・・」
爺さんがまた呟いた。
「来ない」だけでも疑問なのに「年内」って付けるから疑ってしまう。
「どうして来ないのですか? 」
「台風で・・・台風の影響で・・・被害が・・・。線路がぐちゃぐちゃらしい。年内はムリだろう・・・と」
なんと?! マジか?! ただの徘徊ボケ老人ではなかったのか!!!
「外に観光協会が、駅出てすぐ右手の方に・・・・・・」
そう言うと爺さんは駅を出て自転車に乗り去って行った。
私は心の中でお礼と謝罪を。
ありがとう! そしてスマン! じじい! 徘徊ボケ老人じゃなかった上に親切に色々教えてくれて! ありがとう! 本当にありがとうじじい! 気をつけて帰ってくれよ! じじい!
「わざわざお越しいただいたのにすみません。○○大社でしたらバスでも行けますよ! 」
教えていただいた観光協会で乗るバスと新しいパンフを頂戴し、ようやくいざ出発! ・・・・・・とは行かないのね。
駅目の前のバス停で時刻を確認。
え~っと次は・・・・・30分後。
・・・・・・・・・・・・・・・・・えっっっ?!
もう一度確認。え~っと次は・・・何度確認しても30分後。
30分?! さんじゅっぷんんんんんんんんんんんんんんんんんん?!?!?!
30分も待つの?! っていうか30分に1本しかバスないのかよ?! 時間によっては1時間に1本って・・・・・。
まあ、待つしか他に手段はないのですが。
30分と少し待って乗ったバスが意味不明で・・・。
乗客はここでも私1人。それはもういい。慣れたよ。そんな事はもうどうでもいいとして・・・・・・。
運転手が1人♪ ・・・・・・2人♪ ・・・・・・3人♪ ・・・・・・・・・・・・・・・・3人?!
なにこれーーーーーーーーー?!
運転席に運転手が1人。
うん。これはいたって普通。
・・・・・・前の乗客席に座っているあとの2人は?! 何者?!
・・・・・コスプレか? コスチュームプレイなのかい?! コスプレイヤーを乗せたバスは私の疑問も乗せたまま容赦なく出発進行!
Oh! イエィ!! こいつは愉しくなりそうだZe★
道中3人の運転手は仲良さげに喋る。
運転席の運転手が(ややこしい! )一番若そうだが・・・・・・新人さんかな? 新人さんの研修に乗り合わせたのかしら?
しかし時期的には新入社員はないはずだけど・・・うぅ~~~ん。
謎を解くには聞くのが一番! だがしかし! 謎は謎のままの方が・・・・・・。
それになにより、話し掛けるの面倒くさ~~い☆
台風被害の甚大さをまざまざと見せつけながらバスは山道を上る。
そして止まった。
「本当ならもう少し上まで行くんだけどね・・・台風被害の影響で今はここまでしかバスが通らなくて・・・」
後は降りて歩け・・・と。
ははは、わたくし歩きましたわ! 舗装されているとはいえ、山道を! 上り坂を! かなりの距離を!
・・・・・・そして雨が。ポツポツきました。降ってきました。
道中の土産物屋に杖と傘が・・・いらん! 傘なんかいらん! 死に行く私には無用の長物。
杖ももちろんいら~~~ん!
長い長い上り坂を歩き、見えてきたのは長い長い・・・階段・・・。途中途中に鳥居が設けられた長い長い石階段。
雨は僅かに強くなってきてますが! 今さら風邪を引いても問題なし! だってわたくし死にますから☆ この旅の一番の! そして最終目的は『死』ですから!
とはいえ、35歳。完全インドア派。体力僅か。雨。生理。運なし。
キツイわ~~~~~~~・・・・・・。
が、最期の贅沢として・・・最期の物欲として私が求めた『あの子』が目に飛び込んできた瞬間、疲れが吹っ飛んだよ!
いた~~~! おりました~~~♪
いや~~~ん! 可愛い~~~!!!
ネットで見た瞬間から一目惚れ♪ 胸キュンどころか撃ち抜かれました。
胸バッキューーーーーン☆
脳みそズガーーーーーン★ って!
土産物屋にちょこんと佇んでいる『神使』の置物。
真っ直ぐに空を仰ぎ見ているカワイ子ちゃん!
いくつか置いてある大きさの中で手に取ったのは小さな手のひらサイズの子。ずしりと重くて手にしっとりと馴染む感じがいい!
和むわ~。癒されるわ~~~。
その子を置き、まだまだ続く階段を上り始めた。
帰りに寄ります。
霧雨が強くなる中、一歩ずつ上がる。上がる上がる上がる上がる上がる上がる上がる上がる・・・・・。
そして到着。
雨にけぶる神聖な境内。
粛々とした気持ちで詣でる。
二礼二拍手一礼。乞い願う。
(どうか上手く逝けますように!!! )
マジで! 本気なんです!
ここでも願うのはただその一つのみ。
境内散策。さすが有名な観光地。団体客も複数来ていた。
ほほ~~~う・・・この木の股をくぐれば寿命が延びるとな・・・・・・・却下です! わたくし寿命を断ち切りに来ましたので却下です!!
山の上。霧雨なのが残念。きっと景色は最高なんだろうな。
全身しっとり濡れた体が寒気でブルリと震えた。散策途中で茶屋発見。なにか温かい物でも飲もうかな~。
「はい、どうぞ! ソフトクリームです! 」
わ~~~やった~! ソフトクリームだ~!
茶屋の中は団体客でいっぱいだからお外のベンチで食べることにしよう♪ 一応屋根もあるから雨に濡れる心配もなし☆
あ~~~~~~~~~~~~寒い・・・・・・。
空気が冷える山の上。霧雨。全身しっとり濡れてます。
ソフトクリ~ム★
・・・・・・・・寒い。
だってさ、食べてみるのもありじゃん?! 『ご当地名物ソフトクリーム』だよ?! ここでしか食べられないんだよ?! そりゃ注文しちゃうってーの! 食べるっつーの! 寒いっつーーーーーーの!!!
完全に芯から冷えた体を引き摺り境内散策再開。
『修繕費用のご寄付をお願いします』
と書かれた小さな看板。
記帳ノート。
手作りの小さな木の箱。
とりあえず寄付しときました。深い意味なんかありゃしません。だって私にお金はもうそんなに必要がないから。
死にますから。
記帳もしましたよ。
『某人某所』と。
振り返ると巫女さんが笑顔で、
「お気持ちありがとうございます」
と何かを差し出してきた。受け取った物を開けると『箸』が・・・・・・。
ああ、もう私死ぬのにな・・・・・・。このお箸を使って何かを食べることもないのにな~~~。
苦笑した。
そして見た。
包みに『長寿箸』と書かれているのを。
ぜーーーーーーーーーーーーっっったい! 使わねえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!
ってか、要らねぇぇぇぇぇぇーーー!
思わず巫女さんに投げつけor地面に叩きつけそうになりました。
神!!! 仏!!! マジ! ムカつく!
死ぬって言ってんだろーーーが!!!
帰りの階段の途中に、震えながら私が食べたソフトクリームの元ネタの飴ちゃんが売っていた。
よぼよぼの婆さんが1人でひっそりと商売をしている。目が合った私に手招きしながら声をかけてきた。
「○○飴ですよ。ここの名物ですよ。3袋・・・いや4袋500円ですよ。」
う~~~ん。そんなに要らないんだけどな~。1袋でも今の私には多すぎる。
あと2~3日じゃ食べきれないし。
一応聞いてみた。
「1袋だといくらですか? 」
「1袋だと高いから3袋・・・・・・いや4袋買って行きなさい」
「いえ、そんなに要らないんで・・・・・・」
「いいからいいから。ほら、お土産にでもすればいいよ」
「いや、1袋で・・・・・・」
「1袋だと高くなるから」
「いえ、本当に1袋で・・・・・・」
「お土産にすればいいよ」
「いえ、あの・・・・・・」
お互い譲らない攻防戦。
3つも4つも本当に要らないんですよ? 理由を言いたくなるほどババアは折れない。
言っちゃうぞ? 理由を言っちゃうぞ?
「私もう死ぬんですよ~。だからそんなに要らないんですよ~」
って言っちゃうぞ?
ババアの寿命縮めちゃうぞ?
まあ、実際は言わないけど★
言えないけど★
攻防戦は私の勝利!
ついにババアから1袋の値段を聞くことに成功しました!
「1袋だと400円になるよ? 」
わぁ~~~~~~~~い! 本当にたっか~~~~~い☆
いったい全体何がどうなってどうやったらそんな事に・・・そんな値段になるのかさっっっぱり解らないのだが、どうでもいい。
死に行く私にとっては取るに足らないほど些細な事だ。
「ありがとうございました~」
婆さんは丁寧に頭を下げて見送ってくれた。
500円玉を渡し、尚且つ「お釣りは要らないですよ」と言って私は飴を1袋買って階段を下りた。
どの子にしようかな~~~♪ どの子も手作りだけあって微妙に僅かに違う。
行きに寄ったお土産屋で私は『神使』を見つめる。
可愛い過ぎます!
これでもかと言うほどに真剣に慎重に選ぶ。
だって最期の買い物だよ?
最期の物欲だよ?
最後の最期まで物欲まみれの自分を笑うのも最後。
「この子下さい!!! 」
嬉しい・・・嬉しい・・・嬉しい・・・・・・。
買っちゃった。
もうあと死ぬだけなのを承知で買っちゃった。
・・・・・・嬉しい。
小さな『神使』が入った小さな箱をバッグにしまい込んだ。
これでもう、本当に満足だ。
他には何も要らない。
あとはもう。
死ぬだけです。
歩いて歩いて元来た道を下る。霧雨は弱くなっていた。
ようやく着いた臨時のバス乗り場。何時に来るかな~?
はい。次のバスまで30分です。
なんか・・・ことごとく待つんですね☆
臨時のバス乗り場すぐそこのお土産屋を覗く。欲しい物は何もないから完全なる冷やかしで、ごめんなさい。ヒマなんです。
そこで店番をしていたのはバスの運転手。
・・・・・・またですか?! コスプレですか?!
流行ってんの?! ねえねえ、バスの運転手限定コスプレ!!!
流行っているのーーーーー?!?!
私が身辺整理やら死出への旅路やらで世の情報をシャットアウトしていた間に世間では、
『バスの運転手限定コスプレ』
が?!?!?!?!?!?!
お土産屋の運転手コスのおっちゃんと世間話をダラダラしているとバスが・・・・・・おっちゃん、店が空になるのも気にせず外に飛び出した。
そして慣れた様子でバス誘導。
な~んだ、本当の運転手の方だったのね。
そして乗り込んだ帰りのバスには行きと全く同じ方々が・・・・・・。
1人も欠けることなく相変わらずのコスプレ集。
なにかしらこれ? デジャヴ?
私には『乗る』という手段しかないわけで・・・・・・。
来た時と全く変わらない同じメンツの車内。
3人の運転手と私。
一つだけ変化があったのは、実際にバスを運転する人!
「今度は・・・オレか。交代しよう」
そう言って運転手が変わった。
なんなのだろう? そのローテーション。っていうか、ただのコスプレイヤーじゃなかったのですね。
本物の運転手の方なのですね。何か意味とかあるんだろうけど・・・まいっか♪
帰りの車内で運転手の1人が飴を配る。
運転手たちと私にも。お礼を言った私に飴の袋も手渡してきた。
「開いてるけどまだ半分以上残っているから。はい、あげる」
そう言って渡された飴の袋を見ると、私が先ほど攻防の末、婆さんからやっと1袋だけ買った飴ちゃんだった。
増えたーーーーーーーーーーー!!!
車内でそっと開けて取り出した小さな可愛い『神使』。
つるりとした手触り。撫でる。可愛い。見つめる。可愛い。そしてまた撫でる。・・・・・・ああ、可愛い。
『ありがとう』と『ごめんね』とを同時に
思う。
死ぬのにね。私。この先大事にすることも出来ないくせにね。
私に選ばれ、買われたキミ。
ごめんね。勝手だけど一方的だけどありがとう。
私の最期、見届けさせる事になるなんて思ってもなかっただろうに。
そんな事のために造られたわけじゃないのにね。