第7話
女性は40代後半と言った感じで、若かりし頃は可愛かったかのような印象を薄々ながら感じさせた、が…大ぶちで厚いレンズのメガネとパジャマのような服装、そして眉間に寄せたしわがとても無愛想な印象を受けさせ感じが悪かった。…まぁ眉間のしわは僕のせいなのだが。
僕がその女性の前に立つと彼女は堰を切ったように口を開いた。
「ちょっと君!聞いてるの!? 危ないじゃない!!」
(あぁ〜…こりゃ完全にキレてるな。)
「ぁ すみません。」
僕は取ってつけたように軽く複数回頭を下げてその場を去ろうとした、がしかし女性が立ちはだかる。
「待ちなさいよ。君高校生でしょ?もっとちゃんと謝れないの!?」
(はぁ…なんなんだよこの人?謝っただろ?)
「本当に申し訳ありませんでした!」
今度は深々とお辞儀した。
「ホントに反省してるの!? もしぶつかっていたらどうするの?君責任とれるわけ!??大体赤信号だったわけでしょ!! 君の学校はなにを教えてるのよ??…」
こんなセリフが10分、20分と延々に続いた。
(この人いい加減にしてくれないかな。大体、君 って言うのむかつくなぁ。もう学校に向かわないと遅刻だよー。)
そんなことを考えていたとき女性がちらっと腕時計を見た。
「あぁ!もうこんな時間じゃない!君のせいよ?最後にもう一回ちゃんと謝りなさいよ!」
(はぁ!?なんでこんな言われなきゃならないんだ? けど、こんな人相手にしてたら遅刻しちゃうしな。仕方ない。)
「申し訳ありませんでした!」
僕はまたも深く頭を下げた。
「…じゃぁもう良いわ!」
全てを吐き出したのか女性はそのまま、すぐ車に乗り込み走り去って行った。
(なんだったんだあの人は? いくら僕が悪かったと言えどもしつこすぎる。あんな人の子供はどんな風に成長するんだ? 意味がわからん。)
さすがの僕も憤りを感じていた。
(なんかさっきの光景、近所の人とかに見られたらカッコ悪いなぁ…はぁ)
…
僕はバッグの中にMDを放り込み一気に下がったテンションと共に、自転車に乗って学校へ向かった。
…この忌むべき出来事が幸福をもたらす運命の出会いに繋がるとは当時の僕には思いもよらなかった。