第6話
その日の夜は久しぶりに[明日]が待ち遠しかった。
一体どんな映画なのだろう?
オーディションではなにをやるのだろう?
僕は受かるのだろうか?
さまざまなことが頭の中を錯綜していた。こんなに頭を使ったのは何日ぶりだろうか。
気が付いたときには日は昇り朝になっていた。
僕は上体を起こし2、3度大きなあくびをした。いつもならここでだるく朝の支度を行うところだが昨日のこともあり頭がすっきりしていた。
どうやら今日も暑くなるらしい。
晴れた気分のままいつもより早く支度を終えると、そのまま学校へと自転車を駆けた。もちろんチラシを忘れずに。
Yシャツの胸ポケットに入れたMDからはMr.Childrenの[PADDLE]が流れていた。
耳から流れるBGMのせいもあって僕は赤信号もつっきて完全に調子に乗って走っていた。その勢いで、いつもは車の通りがほとんどない小道を渡ろうとした。
その時…
車が一台予想外のタイミングで渡ろうしていた僕を遮るように出てきた。
僕はあまりに突然のことでわけがわからなく反射でブレーキを力いっぱい握りしめた。
気が付いたときにはBGMが止まっていた。
胸ポケットのMDはその反動でイヤホンごと勢いよく地面に叩きつけられていた。
車の方も止まったらしくなんとか事故は防げたみたいだ。あやうく大事故になるとろだった。
「ふぃ〜、危ない危ない」
自分にも聞こえないくらい小さな声でつぶやきながら、地面に無造作に転がったMDの回収作業を始めた。
MDを手に取った瞬間その視線の延長線上に2本の脚が見えた。
そのままその脚にそって見上げると腕を組んで仁王立ちしている女性が居た。太陽の影になって顔がいまいちわからない。
まるで皆既日食だな。
「ちょっと君!」
どうやら今の車を運転していた人らしい。
僕はそのままMDを持って立ち上がった。ようやくその女性の顔を見ることが出来た。