前夜
星空に輝く 路地に 1人の女が、立っていた。
女は、空を見上げ 何かを睨んでいる。
周りには、誰もいない。
夜更けということもあり いるとすれば 酔い潰れた サラリーマンくらいだ。
けれど 相当 酔っているのか 夢の中に旅立ってしまっている。
だから 女が、何を見ているのかも 言っているのかも、わからないだろう。
「戻ってきたわ………全てを、奪ってやる………。
お前達の手に入れたもの 全てを」
それは、自分の持っている 全てを賭けた 決意。
決めたからには、後戻りなどしない。
これは、もう 自分の生きている証。
その思いを糧にすることで 女は、生きているのだ。
でなければ 当の昔に 命を絶っている。
「今に見ていればいいのよ。
その幸せが、一気に 絶望に変わるのを。
フフフ………どこまでも、堕ちればいいよ。
その姿が見れないのは、残念かもしれないけど。
道連れにしてやるわ………終わりのない 地獄の底へ………」
女は、不適に笑う。
真っ赤なルージュは、まるで 血のように濃い。
まるで 般若の能面のようだ。
「だって そうでしょう?
あたしの幸せを奪ったのは、お前達なんだから。
最初に 仕掛けたのは、あなた達。
あたしは、絶対 お前達を許さない。
ここまでのことをさせるのは、あなた達だということを 忘れないで。
あたしは、もう 誰の言葉も信じない………何も知らなかった あの頃とは、違う。
憎しみが、あたしを強くするの。
たとえ 地球上の人達が、敵になっても 構わないわッ!」
女は、高らかに宣言する。
それは、まるで 死刑宣告をしているかのように。
恍惚とした顔をしている。
女が見ているのは、大きなモニタに映る 家族のCM。
見るからに暖かい 幸せそうな家族の姿が、映し出されている。
それは、女の大切なものを奪ったことで 成り立ったもの。
女にとって 見ているだけで 嫌悪感しか 生まれない。
だから それを、完膚なきまで 壊してやる。
それが、女の生きがいなのだ。
映っているのは、女が心の底から憎んでいる人物。
「そんなものを手に入れる為に お前は、あたしの幸せを奪った。
なら………あたしは、それを取り返すわ。
どんな方法を使ってでも………。
気の迷いなんか ない。
たとえ 誰かを巻き込むことになったとしても」
女は、モニタに語りかける。
別に 言葉を返してくれるわけではない。
けれど そうせずには、いられなかった。
画面の中で 憎い相手は、何も知らずに 笑みを浮かべている。
「あの時のような手は、もう 通用しない。
一体 どんな計画をする?
受けて立ってあげるわ。
けど お得意の手段は、もう 使えないわよ?
だって あたしは、独りなんだから」
そう………彼女を心配してくれる人は、もう 誰も、いない。
そものも みんな ニセモノだったのだから。
全て 自分を閉じ込めておくための偽りの存在。
何もかも、知った時ほど 女は、絶望を感じなかった。
けれど それと同時に 空虚な気持ちになる。
最初から どこかで 信じていなかったのかもしれない。
そうすれば あんなにも、傷つかずに済んだのだから。
でも それは、過去のこと。
女は、生まれ変わった………強くなったのだ。
「もう 同じ過ちは、繰り返さない。
全ては、願いを叶える為に………たとえ 恨まれたって 構わないもの。
エピローグは、もう 1つしかないんだから」
女は、自嘲的な笑みを浮かべ ポーチの中から 1枚の写真を取り出した。
中に写っているのは、まだ 純粋だった頃の自分。
そして 当時こそ 信頼していた 友人達。
でも 全てが、自分を騙し続けていたのだ。
何もかも、仕組まれていたこと。
女は、それを知り 変わった。
「さようなら」
女は、写真を破り捨てる。
何も感じない 無表情のままで………。
全ては、復讐する為………。
自分から 大切なものを奪った者達への。
汚い手段を使い 幸せを手に入れ 罪を償わない者に。
「もうすぐ 前夜祭が、始まるわ」
女は、嬉しそうに 呟く。
それが、始まれば 全てが、動き出す。
誰が、阻止しようが もう 止まらない。
そして 女の長年の願いが、叶うのだ。
運命の日は、刻々と近づいていく。
それは、ハッピーエンドか 誰も知らない。
全ては、神のみぞ知る。