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無魔(ノーマ)の鑑定士~絶縁体の少年と、極大魔力の令嬢~  作者: ぱすた屋さん
第6章:歯車が回る時

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サイレント・ギアの正体



 再起動したジャイロ・ギアの重厚な回転音が、地下空間に響き渡る。

 物理的な水平を取り戻した都市の振動は、先ほどまでの絶望的な軋みとは異なり、確かな「生命」の律動リズムを刻んでいた。


 だが、テオの表情は晴れない。

 彼はシリンダーから立ち昇る熱気の中、暗闇の奥……巨大なメインシャフトの陰に立つ「人影」を見据えていた。


「……計算通りですね。魔力そのものを物理的な圧力に変換して、無理やりピストンを動かす。魔法を否定しながら、魔法を最も泥臭い方法で使いこなす。テオ、お前はやはり『あいつ』の弟子だ」


 闇の中から現れたのは、煤けたガスマスクを首にかけ、油にまみれた古い外套を纏った一人の男だった。

 その手には、使い込まれた精密な計測器と、テオが持っているものと同型の古いレンチが握られている。


「……師匠の、共同経営者パートナーでしたね。ロジャー」


 テオの言葉に、ヴァレリーとカイルが息を呑む。

 目の前の男――サイレント・ギアの首謀者は、かつてテオの師匠と共に、この都市の物理的な保守点検を一手に引き受けていた伝説的な技師だった。




「ロジャー? 記録では、五十年前の事故で死んだはずでは……」

 ヴァレリーが魔導杖を構える。しかし、ロジャーは嘲笑するように肩をすくめた。


「魔法の記録など、インクの染みに過ぎん。我々はあの時、この都市が『物理的に限界』であることを賢人会に報告した。だが、奴らは耳を貸さなかった。魔法という名の麻薬に酔いしれ、歯車の摩耗を『精霊の気まぐれ』として片付けた。……師匠は都市を守るために自分を焼いたが、私は決めたのだ。この嘘八百の空中楼閣を、一度地面に叩き落として更地にするとな」


 ロジャーが一歩踏み出す。彼の背後からは、同じく作業服を纏った「沈黙の技師たち」が次々と現れた。彼らはテロリストではない。かつてこの街のインフラを支え、魔法という光の陰で使い潰されたエンジニアたちの成れの果てだ。


「テオ。お前ならわかるはずだ。ベアリングの球を抜き、インクを塗り潰し、扉のノブを殺す。それは破壊ではない。魔法という名の依存症に陥った連中から、物理的な『現実感』を取り戻させるための教育だ。……今、ジャイロを回したのは余計な真似だったな。お前が直さなければ、この街は美しく地面に突き刺さり、ようやく本物の土の匂いを嗅げたものを」


「……教育にしては、摩擦コストが大きすぎます」

 テオは、火傷を負った右手を力強く握りしめた。


「あなたは物理を愛しているのではない。魔法を憎んでいるだけだ。魔法という嘘を憎むあまり、物理法則という『世界の言葉』を、単なる復讐の道具に貶めた。……師匠が私に教えたのは、壊す方法ではありません。不備を見つけ、それを一つずつ丁寧に正し、世界をあるべき姿に繋ぎ止めるための『鑑定』です」


「抜かせ! お前たちが救ったつもりでいるこの街は、明日にはまたボルトが緩み、明後日にはギアが欠ける! 魔法という名の過負荷をかけ続ける限り、物理的な崩壊は止まらん! この街は……浮いていること自体が『不備』なのだ!」


 ロジャーが叫ぶと同時に、地下の至る所に仕掛けられていた「物理的な爆薬」の導火線が火花を散らした。

 彼は都市を落とすことを諦めていない。再起動した機関そのものを、今度は内側から爆破し、物理的に修復不可能な状態へ追い込もうとしているのだ。


「カイル、起爆回路の座標特定を! 局長、アイリスを守ってください!」

 テオは重いバールを手に取り、ロジャーへと駆け出した。


 魔法の光が届かない地下数千メートル。

 師匠の遺志を継ぐ「鑑定士」と、過去に絶望した「破壊者」。

 同じ物理学を武器にする二人の、世界で最も重厚で、ざらついた質感を伴う最終決戦が始まろうとしていた。


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