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無魔(ノーマ)の鑑定士~絶縁体の少年と、極大魔力の令嬢~  作者: ぱすた屋さん
第6章:歯車が回る時

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創立祭の喧騒

 浮遊都市が一年で最も眩しく、そして最も傲慢になる日が訪れた。


 創立祭。数千年前、先人たちが重力という呪縛を断ち切り、この空へと版図を広げた奇跡を祝う祭典だ。街の至る所には虹色の魔導灯が灯され、広場では魔導師たちが競うように空中に壮大な幻想画を描き出している。地上数千メートルの冷たい風は、完璧に制御された暖かな薫風へと書き換えられ、市民たちはその恩恵を空気のごとく享受していた。


「……計算の合わない浪費ですね」


 祭りの喧騒から遠く離れた旧市街の時計塔の影で、テオは手元の計測器を見つめ、低く呟いた。

 周囲の華やかさとは対照的な、いつもの灰色の作業服。その肩には、学園の最高級の礼装に身を包んだアイリスが寄り添っている。彼女の銀髪は魔導灯の光を反射して白銀に輝いていたが、その碧眼が見つめているのは空の幻想画ではなく、テオが持つ無機質な目盛りだった。


「テオ。……この光の波形、また少し乱れているわね」


 アイリスが指差した先、中央広場の巨大な魔導プロジェクターから放たれる光が、数分に一度、微かに「瞬き」をしていた。普通の人間なら瞬きの合間の瞬間に過ぎないと見過ごすだろう。だが、極大の魔力を持ち、かつテオの影響で世界の「不備」に敏感になった彼女の目には、それが致命的なエラーの予兆に見えていた。


「ええ。光を維持するための魔力供給マナ・フィードが、物理的な抵抗によって熱に変換されている証拠です。カイル、今の出力アウトプットの推移はどうなっていますか」


 近くのベンチで、十数台の仮想モニターを展開させていたカイルが、苦虫を噛み潰したような顔で画面を叩いた。


「最悪だぜ。賢人会のバカども、祭りの演出のために魔導核の制限リミッターをさらに三パーセント開放しやがった。街中のライトアップ、空中のパレード、それら全ての『魔法の結果』を維持するために、地下の配管は今、沸騰寸前の熱に晒されてる。……見ろよ、この排熱のグラフ。もはや垂直上昇だ」


「……ヴァレリー局長は?」


「彼女なら、風紀維持局の総力を挙げて『見えない避難経路』を確保しようと奔走中だ。上層部には『テロの警戒』と嘘をついてな。あいつ、真面目すぎて胃に穴が開くんじゃないか?」


 カイルの皮肉に、テオは答えなかった。

 テオの足元。石畳を通じて伝わってくる振動が、数時間前よりも明らかにその「波長」を変えていた。

 魔法が作り出す光のカーテンの裏側で、都市を浮かせる巨大な物理歯車が、自身の許容範囲を超えたトルクに悲鳴を上げている。それは祝祭の音楽にかき消されているが、テオの耳には、都市の骨組みが軋む絶望的な不協和音として響いていた。


「テオ。……私、さっき広場を歩いた時、一瞬だけ『足が重くなった』気がしたの」


 アイリスが、自身の白い手を見つめながら囁いた。

「魔法で浮いているはずなのに、一瞬だけ、地面に強く引き寄せられた。……あれは、気のせいじゃないわよね?」


重力グラビティの揺らぎではありません、アイリス。都市が高度を維持するための推力スラストが、一時的に不足したんです。魔導核から送られるエネルギーが、供給過多オーバーロードによって変換効率を落としている。……バケツに無理やり水を注ぎ込んで、溢れ出した水が周囲の機械を壊し始めているような状態です」


 テオは立ち上がり、工具袋から重厚なバールを取り出した。

 祭りの最高潮。人々が空を見上げて喝采を上げるその瞬間こそが、この都市の物理的な限界点が訪れる時だ。


「行きましょう。創立祭の本当のフィナーレを飾るのが、都市の墜落であってはなりませんから」


 賑やかなパレードの音楽が遠くから風に乗って届く。

 魔法という名の贅沢な言い訳が、世界で最も華やかな光を放つその裏側で、四人の異端児たちは、誰もいない暗い地下通路へと足を踏み入れた。


 地下へ一歩下がるごとに、祝祭の音は物理的な低周波の振動へと変わり、空気は焦げ付いた潤滑油の匂いを帯びていく。

 テオは、オイルランプの火を静かに灯した。

 魔法の輝きを一切受け付けない、絶縁体の瞳。その奥に映るのは、今まさに焼き切れようとしている都市の「真実の鼓動」だった。


「創立祭の演出としては、少しばかり地味になりますが……泥にまみれる準備はできていますか?」


 アイリスはドレスの裾を強く握り締め、力強く頷いた。

「ええ。魔法の光で目が眩むよりも、あなたのランプが照らす闇の方が、ずっと信頼できるわ」


 祭りの喧騒を背に、彼らは重力との最終決戦の地、第ゼロ機関区へと歩き出した。

 魔導核のオーバーロードが引き起こす物理的な咆哮が、地下の深淵から響き始めていた。


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