第9話 着いちゃった(王都に)
あー恥ずかしい。さっき起こったことについては、クリスの命が俺の謎パゥアーで助かったし、俺がギャン泣きしたのも結果的にはそれで良かったって思えてる。誓約が結婚式みたいだったのも百歩譲って良いとしよう。どうせ過去に転生者が居て流行らせたんだろ、はいはいテンプレテンプレ。(笑)
急に妹にされたのも理由があってのことだし、何故かこの二人と離れたくないって思ってしまっている。これは刷り込みって奴か?この世界に落ちてきてから最初に見たのがクリスだったから⋯ってのは考えすぎか。
生まれてからずっとお世話してくれてるんだから情くらい湧くさ。それより由々しき問題が発生している。具体的には呪い方面で。
「お姉ちゃん、お腹すいた」
「お、これでも食ってな」
「はぁぁぁ、いいわねぇ⋯超うらやましい。私のこともお姉ちゃんって呼んでくれない?」
「ヤダ」
そうなのだ。クリスの名前を呼ぶ時に謎変換でお姉ちゃんと発言してしまうという、とんでもないデバフがかかってしまったのだ。ティナ曰く、女神の誓約は魂に刻まれる物だから誰にも害せない強い効果があるそうだ。
名前は違えど女神繋がりであのクソみたいな呪いが効果を発揮しているのだろうか⋯やはり許さない。そんな事を考えつつ貰った干し肉をかじりながら背負われていると、ついにでっかい壁が見えてきた。
「すごく、おおきいです」
「だろ?腕のいい土魔法使いが作ったらしいぜ」
「俺はあの列に並ぶわー。もう着いたようなモンやし、二人にはコレ、依頼達成の確認書類や。ほなまたよろしゅうなー」
ディンとはここでお別れらしい。俺達は隣の冒険者用の出入り口から入るようだ。
「それじゃあね」
「またね~」
「またな。⋯さて、私達もさっさとギルドに報告に行って、宿屋を確保してから教会に行くか?」
「今日はもう日が落ちそうだし明日にしましょ。色んなことがあったしね」
三人で(俺は背負われて)歩いているとやけに視線を感じる。どういうことだ?眼前の町並みを堪能したいのに人の視線が気になって仕方がない。また気づかない内に表情が変わっていたのだろうか。
「な、なんか見られてる気がするよぉ」
「お前⋯まぁ、自覚がないのはしょうがないか」
「???」
なんだ?俺の顔はこっちじゃブサイクだとでも言うのか、珍しい顔つきだとしてもジロジロ見てくるのはマナー違反というものだろうが。訴えるぞ。
「アリスちゃんってすっごく可愛いからね!本気で拐われないように注意しないと駄目よ?まぁ、クリスと姉妹になったからどこに居ても魂の結びつきでわかるんだけど。あとさっきから干し肉をもぐもぐしてるせいでまた笑顔になってるわよ~」
「え~またぁ?だってお醤油おいしいもん」
なんということだ、俺は異世界においてもハイレベルの美幼女らしい。あと魂の結びつきってなんだ、初めて聞いたぞ。ティナは後で問い詰める必要があるようだな。ロクな説明もせずに変な誓約させやがって⋯。そして肉は美味いのが悪い。この体は妙に腹が減るんだ。
「そこで止まってギルドプレートを出してくれ。司祭のティナと、冒険者のクリスね、おかえり。その子は?」
「この子は出先で拾った子なのよ。親に死なれちゃったみたいで、行く所もないからってお世話したらヤケに親しくなっちゃってね。クリスの妹にしたからよろしく~」
そういう設定だそうだ。まぁ半分くらい嘘はついてないから特に問題はないだろう。木を隠すなら森って言うしな?俺の容姿については隠しようがないから周りが慣れてくれ。(なげやり)
「そうか。分かった、通っていいぞ。ところでその子、ウチの息子の嫁にどうだ?」
「えぇ!?ヤダ!」
「ハッ倒すぞこの野郎、私とティナの目の黒いうちは嫁にはやらん」
「がっはっは!やってみやがれ!」
「ボキボキ」(ティナが手の骨を鳴らす音)
門番と軽口を叩き合ってから門をくぐるとようやく異世界の王都が目に入った。ほぼ全ての家が石造りでとても頑丈そうに見える。これも土魔法とやらで作ったのだろうか?
歩いている人も老若男女様々で、時折人種が違うのだろうドワーフのような小人や鱗が付いた大きい人までが目に入る。やっぱファンタジーってのはこうじゃなきゃな!
「うっうわぁぁ~⋯」
「目がキラキラしてるわね。やっぱり今からでも私の妹にならない?」
「ヤダ」
「いつまで言ってんだよ。私とティナは姉妹みたいなもんだから実質お前の妹でもあるし、こいつの事も普段から実の妹みたいに甘やかしてるじゃないか」
「違う!違うのよ!私はお姉ちゃんって呼ばれたいのよ!」
「ハァ⋯行くぞ」
俺の姉枠はクリス以外には譲らない。なんというか、こう、安心感があるのだ。近くに居たいというか、愛されている実感があるというか。前世の家族と一緒に居た時もこんな感じだったのかもしれない。
まぁ前世の親が今の俺を見ると、いい歳こいて泣き喚いた挙げ句「お姉ちゃん」なんて言っててドン引きしそうなので深くは考えないようにしよう。今じゃ顔も思い出せないし死んだ時の年齢も覚えてないからノーカンだよ。
「着いたからカウンターへ報告に行くぞー」
「やっとね⋯色々あって疲れたわー」
「ここがこの女のハウスね!」
「何言ってんだお前?家なんて持ってねえよ」
両開きの大きな扉を進むと、中は俺の思い描いたようなギルドって感じでテンションがぶち上がりそうだ。何故あるかわからない横にいっぱい並んでるカウンターと、入口から離せばいいのにわざわざ来た人の顔が見えるくらい近い併設の酒場みたいなテーブルもある。ああ、転生してよかった。ありがとう女神様ァ⋯。
「お?ティナ達が帰ってきたぞ」
「ほー、マジだ。あの背負われてる可愛い子は誰だ?」
「髪が輝いてて天使のようだ、娘にしたい」
「はぇ~、すっごいかわいい」
飲んだくれていた連中がザワザワしたりニヤニヤしたりでこちらの様子を窺っている。いや、ニヤニヤはすんな。あと俺を見るのもやめろ。幼女目線になってから知らない大人の男に見られるのはちょっと怖いんだよ。
「戻ったよー」
「あ、クリスさんにティナさん!おかえりなさい!村の様子はどうでした?」
「別に変わってなかったわよ。あぁ、近くの森になんか落ちたみたいだから調査には行ったわね。でも特に問題もなかったから帰ってきたわ」
「それと帰り道の街道にホブが居て殺されかけたんだ。見てくれよこの腹!ポーションが無けりゃお陀仏だったね」
ポーション無駄遣い事件はそういう方向で捏造していくか。まぁそれが無難だろうな。
「えっ、ホブゴブリンが出たんですか!?それは近くに巣があるのかもしれませんね⋯後で他の冒険者を向かわせます!」
「そうしてくれ。ホブはティナが倒しといたけど、今回は私もゴブリンを一匹倒したんだ!その後大変なことになったけど」
「えぇ!?クリスさんって妖精はついてなかったですよね!?魔素は大丈夫だったんですか!??」
凄い驚いてるけどそこまで話してしまって大丈夫なのだろうか、要らない事まで言って藪蛇なんてやめてくれよ?まだ生まれて一週間も経ってないのにお尋ね者扱いなんてごめんだからな。
「ああヤバかったさ、その後ティナに背負われながら移動しててさっきようやく治ったんだ。ほらこれ」
そう言ってクリスは謎の装置にギルドプレートを差し込むと『ゴブリン:1』と書かれたホログラムのような光が表示された。あぁそういうね。いずれにしろバレるから先手を打っておいたわけか。中々頭が回るじゃないか、さすが俺の姉。
ティナも「大変だったのよ~」とか言いつつギルドプレートを差し込んで記録を表示させている。評価とか報酬に響くのかな?便利なもんだ、俺もそのうち作って無駄にガシャガシャ差し込みたい。
「本当に倒してる⋯それはおつかれさまでした。報告は受け付けましたので今日はゆっくり休んでください。ところで、ずっと気になってたんですけど後ろの子は?」
カウンターのお姉さんが急に俺を見てきたのでビクッ!として干し肉を落としそうになる。
「さっきからニコニコしながらお肉を食べてて気になってたんですよね~。すごい笑顔でこっちまで笑っちゃう」
「あぁ、この子は途中で保護したんだ。親なしみたいでね、私の妹にした」
「えー!いいなぁ!ねえ、お名前は?私はニナって言うの」
「は、はい!あたしはアリスって言います!三日前お姉ちゃんに拾われました!よろしくお願いします!」
綺麗な大人の女性と会話するのは少し緊張するな。見た所、二十そこそこだろうか?子供には見えない。ティナとクリスにはそんなことは無かったから前世の俺の享年は二十歳くらいということだろうか。
「ふふ、よろしくね。私のこともニナお姉ちゃんって呼んでくれてもいいよ?」
「じゃあ⋯ニナ、お姉ちゃん」
「ガーン」
「あーーーかわいい!この子持って帰っていい!?いいよね!?」
「良いわけあるか、誰にも渡さん」
俺の争奪戦は見えないところでやってくれないか(錯乱) あとティナは姉といつも一緒にいる気安い友達みたいな感覚で、家族というより先輩みたいな感じなんだ。それに近所に住んでる年上の女の子にもお姉ちゃんって呼ぶしな。だから強く生きてくれ。
「そ、それじゃ私達は宿に行くから、また明日ね⋯」
「じゃあな」
「ばいばい!」
「あっ今でしたら【子熊亭】が空いてますよ!アリスちゃんバイバ~イ!」
ギルドから出て少し歩くと紹介してくれた宿屋に着いて、二人部屋を取ってすぐにご飯を食べ休むことにした。今日は色々あったからな⋯クリスが死にかけるわ、俺の力で生き返るわ、姉が出来るわ、急に結婚させられそうになるわ⋯。
明日教会に行ったら一旦落ち着けるんだよな?とりあえずティナに色々聞いておこう。あと今日は一緒に寝てケアもしておこう。




