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第7話 出発しちゃった

 村長宅に招かれ全員椅子に座って予定などを話し合っている。


「ーーーー・ーー?」

「ー・!ーーーーー」


 はぇー、周りが気になって何言ってるのか全く頭に入ってこねぇ、集中力も散漫になってやがる。あ、本棚に収められてる本の背表紙に色々文字が書いてる。


 なになに?レダ村の郷土史と名簿、それに日誌か。字を読めるか不安だったけどなんとかなるみたいだな、これはありがたい。いや、記憶を取り上げられてるわけだからまだマイナスなんだが⋯勘違いするなよ自称女神。


「オイ、そろそろ出るからお礼くらい言っとけ」


 俺の頭をぽすぽす撫でながらクリスさんが現実に引き戻した。あ、気持ちえぇ⋯


「ふわっ。あ、村長さん。あたしはアリスって言います。あの、服とか靴とか、ありがとうございました!」


「ええんじゃよ。それより丈は合ってたかの?昔、ウチの娘の余所行きで仕立ててもらったものなんじゃが、アリスちゃんにはちと大きいようじゃ」


「子供はすぐ大きくなるしブカブカくらいでちょうどいいです!」


「そうかそうか。それにしても随分と賢い話し方をする。大人と喋っておるようじゃ」


 ギックゥ!女神の呪いのせいで敬語じゃないと子供っぽい喋り方になるから嫌なんだが、勘付かれたか?


「あたしは記憶がなくて、その、失礼な事言っちゃわないように気をつけてるんです」


「そんなもの気にせんでええんじゃよ、子供は素直なのが一番じゃ。敬語もいらんぞ?何ならおじいちゃんと呼んでおくれ」


「私達にも敬語を使わなくていいぞ。名前もさん付けなんていらないから普通にしてくれ」


「そうよ、これから一緒に旅をする仲間だもの。他人行儀なんてやーよ」


 んー困った。幼女言葉は勝手に喋ってしまうからなんとかなるとして、俺への精神的ダメージがデカい。しかし、全員期待した目で見てきているので今後は改めねばならないか。


「わかり⋯わかった。クリス、ティナ、お⋯おじいちゃん」


 三人とも満足そうにウンウン頷いているが気恥ずかしい!ティナはまたアイテムボックスから木苺を出してきてるし。そんなもの食わされたら笑顔になるからやめてくれ。甘い。


「ごっつかわええ子やなぁ。アメちゃんいるか?」


 甘い!何らかのフルーツ味の糖分が口を蹂躙していく。あ^~甘味の暴力が脳を支配していくんじゃぁ~~。


「こりゃベッピンさんや。おっきくなったら放っとかれんのと違う?俺はディン。今日から三日間よろしゅうな!」


 胡散臭い関西弁を話す糸目のディン青年は二人が護衛してきた商人だと後から聞いた。なんでも、ここらと王都を往復しながら商売をしているらしい。村長の家にお世話になるついでに、必要な物などを聞きながら酒盛りをしていたそうだ。


「俺のことは気軽にお兄ちゃんとでも呼んでくれや!こんな妹が欲しかったんや~」


「い、妹になる気はないのでディン⋯さんで」


「え~いけずやなぁ、俺もさん付けせんでええで?」


「そろそろ時間だし出発しない~?何があるか分からないし日暮れまでに野営地に着かないと」


「しゃーないなぁ。ほな村長さん、また来るわ」


「おうおう、元気でな」


 村長に別れを告げ、必要な物を持って村を後にした。あれ?クリス以外荷物を持ってないな。そのクリスも腰に剣とポーチがあるくらいで背嚢やら旅セットみたいなものを持っていない。っていうか全員徒歩なんだけど、異世界御用達の馬車に乗ったりするんじゃないの?


「あのう、馬とか乗らないの?荷物とかどこにも持ってないし」


「馬なんて高い物乗れないって。借りても何かあったら弁償できないしな」


「それに荷物は収納(ボックス)があるから大丈夫よ。商人たるもの、特化してあるからかなり持てるのよ」


「商人さんも使えるの!?すごく難しいんだって思ってた⋯」


「せやで~、俺なんかは5種類くらいでそれぞれ100kgは持てるでー?」


「へぇぇ~、人によって違うの?」


 聞く話によると収納(ボックス)は用途によって育て方が違うらしい。スタック数かスロット数のどちらかに偏らせるのが一般的だそうだ。ティナは10スロットで、一つ5kgは入れておける利便性特化型なのだそうだ。クリスは⋯


「そういえば、クリスはどれくらい入れられるの?」


「私は⋯⋯ないんだよ」


「え?」


「私は収納(ボックス)が使えないんだよ。魔法が使えない。妖精が居ないから」


「ようせい?」


「ああ、そうだ。ティナ、魔法について教えてやってくれ」


「わかったわ。ついでに索敵しながら進むからアリスちゃんと先に行ってるわね」


 ティナに背負われて、駆け足で100mくらい先行してまた速度が下がった。なんで離れる必要があるのだろうか?っていうか今のかなり速度が出てたな。俺という荷物を背負いながらでもオリンピックに出れるレベルだったぞ。


「じゃあお話するわね。妖精っていうのは、15歳の成人までに全ての人に訪れる女神の使いよ。妖精が居れば魔力を使って色々出来るんだけど、例えば今走る時に使ってたのも魔力を用いた生活魔法の身体強化(フィジカルブースト)ね」


 ほほう、マジカルな要素は妖精ありきなのか。俺にも使えるといいな、剣ぶん回しながら魔法を乱射するとか全人類のあこがれじゃんね?


「ほぇぇ。あ、じゃあクリスは?」


「あの子はね、待っていたけれど妖精がついてくれなかったのよ。早い子は、私みたいに物心がつく3歳頃には妖精がついてくれて魔法も使えるようになるんだけど、クリスはずっとそれを羨ましそうに見てた」


「えっ⋯⋯誰でも持ってるんだよね?じゃあ、今までどうしてたの?」


「魔力が無い代わりにひたすら体を鍛えてたわ。魔法が使えなくても剣が振れれば獣くらいは倒せる、魔物でも戦闘不能くらいには出来るって」


 今まで若干乱暴な態度だと思っていたがクリスは魔法が使えなかったのか。身体強化すら使えないのに生きていくのはかなり高難度だったに違いない。生まれてからずっとハンデを背負って生きていく苦労なんて計り知れない⋯前世のように社会が保証してくれるなんてこともないだろうしな。


「がんばってるんだね」


「早くにお父さんが亡くなったからでしょうね。家の手伝い以外の時間はほぼ全て鍛錬に注ぎ込んでたわ。いつか妖精がついてくれて、魔力が使えるようになったら父親の敵を討つんだって、今も頑張ってる」


「⋯」


「もう成人して一年経つからほぼ望み薄なんだけどね。だからあの子が頑張れるように私がそばに居てあげてるの。あ、これは言わないでね?薄々気付いてるだろうけど、口に出すとどこかへ行っちゃうだろうから」


「うん⋯」


 重たい。クリスの父親は何かに殺されたようだ。復讐が出来るその日を夢見て重ねた努力が裏切られたなんて、俺なら心が折れて自殺してしまうだろう。それでもめげずに生きてるなんてクリスは強いんだな⋯。


「暗い話はこれくらいにしてアリスちゃんは妖精が見える?普段は肩の後ろに浮いているんだけれど」


「えっ?んーん、なにもいないよ」


「そっか⋯あなたも妖精がついていないのね。クリスが聞いたら仲間が出来たって喜ぶかもね?」


「んー、ちょっと微妙。あたしはまだ小さいからこれから妖精が来るかもしれないんだよね?それを待つ!」


 もしも俺に魔法が使えるようになったらクリスの復讐の手伝いをしてもいいかな、なんて思ってしまう。どれくらい先になるかは分からないけど。


「あはは、まぁそうなるよね。でも今はあの子を頼ってあげてね?たぶん嬉しいだろうから」


「わかった!」


「よし、じゃあ話すことも大体終わったし、後ろと合流しましょうか」


 その後何事もなく野営地に着いて、一晩明かした。それから気付けば村を発って二日が経過していた。その間クリスが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていたけど、ティナの話を聞いた俺は黙って受け入れていた。まぁ、子供だしね?今も歩幅が違うからって、クリスの筋トレのついでに重しとして背負われている。


「こう何も起こらないと暇だな。忙しいのが良いわけじゃないけど歩きながらだと鍛錬もできやしねぇ」


「ハッハッハ、こっちゃあ万々歳や。このまま一生エンカウントせずに往復出来りゃもっとええ」


「二人とも雑談はそこまでよ。あれはゴブリン⋯4、5体か。ちゃちゃっと始末するから離れててね~」


「よし、私は二人の護衛で一緒に下がってるよ」


「お願い」


 少し離れたティナはアイテムボックスから杖を取り出して詠唱を始めた。おー、これが攻撃用の魔法か。足元に青い魔法陣が出現して光っててかっこいいねぇ。俺も妖精が居れば出来るようになるらしいな、早くやりてー。


「生命の根源たる水よ。我が願いに応え荒ぶり、眼前を濁流に飲みこめ。大海嘯(タイダルウェーブ)!!」


 うおおおおめっちゃかっこいいいい!やっぱティナには逆らっちゃ駄目だな!水が大量に出たかと思ったら凄い勢いでゴブリンの群れが押し流されていった。あの威力だと体中の骨がベキベキになるか溺れて遠からず死ぬだろう。初の戦闘はあっけなかったなぁ。


「どう今の?ちょっと魔力使いすぎちゃったかな⋯って後ろ!」


「へぇっ?」


 ティナの魔法に見とれていたら後ろの草むらからゴブリンが三体飛び出してきた。あっちは囮だったのか。まず仕留めやすい俺に三体とも襲いかかってくる。あぁ、顔も知らぬ両親へ。すまない、二回目もここまでのようだ。

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