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第34話 雇われちゃった

デスストたのしいよう・・・

 昨日は散々な目にあった。さて、丸投げされた今日の俺よ、いい案はあるだろうな?あるわけがない。バッチリ睡眠時間を確保してしまい考える時間など皆無だからである。お子様の睡眠不足は成長の阻害にしかならんのだ⋯。


「すいませんでしたああああ!」


 しかし状況は多少変わったようである。例の変態女剣士は昨日の晩から寝ずに土下座をし続けていたらしく、たまに見せる顔には隈が浮かんでいる。


「反省はしたのか?衛兵に突き出した所でもみ消されるのがオチだろうからこの場で聞くしかないんだけどよ」


「はい、昨日は自分でもどうかと思うほどその子に惹かれており⋯いえ、今も惹かれてはいますが判断力が鈍っておりました」


 頭突きが甘かったのか?魅了が多少残っていたようだな。


「本来は遠くで見守り愛でるだけで、手を出すなどこの界隈では死罪も已む無しだと言うのに、私は!」


 訂正、魅了にかかってようがなんだろうがこいつは変態に違いなかった。そして変な界隈に出入りするのはやめなさい。もしや普段から俺を見てる奴らってそういうのも混じってたのか?やっぱ変態だらけかも知れんこの異世界⋯。


「そういう訳で昨日は私が間違っていた、許してくれないか?」


「もう変なことしないならいいけど⋯」


「ほっ、本当か!?見るのはいいんだな!?」


「⋯絶対にあたしにさわらないで」


「アリスちゃん本当にそんな軽いのでいいの?」


 まぁ別に⋯普通の幼女なら泣き喚いて濁った目になる案件だろうけど、この体の中身が恐らく成人男性だからなぁ。男に襲われたならまだしも、きれいなお姉さんに夜這いされた所で「ヨッシャ!」って感想しか出てこない。


「叩いたりする罰はできないし、お金も持ってそうだからそっちも罰にならなさそうだしね。これくらいしかないよ」


「むぅ、確かにな⋯。全く、貴族ってのはこれだから」


「賠償なら出来る限りのことはしよう。私の名はエレオノーラ・グランディールという。普段は身分を隠し冒険者に扮しているのだ」


 グランディール。この王都の名前じゃねえか!嘘を吐いていなければこの人マジで王族みたいだな、喋り方も偉そうっぽいし。最初から見た目と合わさって全く一般人には見えなかったわけだが。


「第二王女様ですね?くだらない継承争いに嫌気が差して出奔なさったと噂の」


 ティナはちょっとした社会的地位があるので何かの折に見たことがあるのだ、と話してくれた。俺と姉一号はサッパリ分からなかったので助かる。やはり持つべきものは顔が広い身内。


「違う、ちょっと暗殺されかけたから身を隠しているだけだ!孤児や遺児を兵にすることなく保護する法案を通そうとしたらこれだ。全く、この国は狂っているよ⋯」


「それは同感だがな」


「子は存在するだけで尊いのに、愛でることもせず戦いだけを教え込むなどと⋯」


「全く持ってそうね」


 アレ?なんか流れ変わったな。おかしな奴がまともなことをすると称賛されるっていうジoイアン・ヤンキー現象か?


「君達もそう思ってくれるか。よし、今から我々は同士だ!」


「それはお断りです。貴方様が何をなさっていたのかはよく分かりましたが、ウチの妹に手を出そうとした件とは別ですからね」


 よし、姉二号は心が強い。一瞬変態に迎合するかと思ったが杞憂だったな!


「あと、賠償の件ですが今は保留です。後々なにかお願いに上がるかも知れませんがその時はよろしくお願いしますね?」


「うむ⋯承知した。それで許しが得られるのならば二言はない。だが問題があってだな、先程も述べたが私は潜伏中なのだ。よってそこまで影響力があるわけではないのだよ。それは分かってくれ」


 大方死にたくないからダンジョン内に逃げ込んでたんだろうなこの人。ギルドプレートも偽名で作ってあるっぽいし顔を見られると不味いから。


 王女様との示談はこれにて終了した。イマイチ権力があるようで無いふわふわした立ち位置みたいだが、何かあった時はこの人をスケープゴートにして逃げればよかろう。俺が町中で泣いちゃった時とか。


 それから俺達はまたダンジョンに行こうとして歩いていたのだが⋯なんか後ろの物陰からまたもやチラチラ見てきてる人がいる。お前、舌の根も乾かない内に再犯するつもりか?


「なんかついてきてるよぉ」


「反応するなよ、ああいう手合は構うとつけあがるからな」


「あの角で走って撒きましょっかー」


 いつもの謎肉の串焼き屋さんで焼き肉のタレがけを買ってからそれなりの速度で走る。もちろん俺はおんぶされた状態なのだがこれだと肉が食えないな。それでもお腹が鳴ってしまったので頑張ってかじりつく。少しは我慢できんのかこの幼女ボディは⋯。


「よし、撒いたな。食い物を手に持ってダンジョンに入るわけにはいかないし、ちょっとあの店で休んでいこうか」


 ちょうど目の前にあった、喫茶店のような朝からやっている食事処兼酒場に入って外からは見えない一角に座ったが、俺達が席についたと同時に「よっこらしょ」と例の変態土下座女剣士が隣のテーブルに座った。フルプレートアーマーなのに意外と素早いなこの変態。


「ふぅ、疲れた。すまない、レモンサワーを一杯頼む」


 レモンサワーあんのかよこの世界。飲みたい!前世では自分で炭酸水と素を使って好みの濃さで作ってたのが思い出されてしまった!個人的には1:1でかなり濃いめに入れて、氷を溶かしながら飲むのがベストである。飲みやすいけどすぐ酔えて風呂上がりに最高の冷たさだった。いや、そうではなくて。


「よく追いつけましたね、殿下」


「シッ!誰が聞いておるか分からん、表ではエレノアで頼む。口調も普段通りでな」


「いや、バレバレだけどなぁ⋯」


 これで隠しているつもりらしい。そもそも口調とか装備とか髪とか全然隠せてないし、他の人達は恐らく空気を読んでくれただけだろう。通報とかして下手に関わり合いを持っても今の俺達のように厄介案件になるだけなのは分かりきってるからな。


「それでどうしたの?また抱きついてきたら今度は首をもらうよ?」


「お、恐ろしい子だな⋯抱擁したいのは確かだが、要件があって後をつけてきたのだ」


 はて、要件とな?


「私も同行させてもらえないだろうか。もちろん、彼女に不埒な真似はしない。それだけは約束する」


 えぇ⋯面倒が厄介事を背負ってきたようなこの人と一緒に行くのか?まぁ姉二人がかりなら暗殺者とか兵士が来ても普通に蹴散らしそうだけど、軽くお尋ね者状態の人と一緒に行動するのはなぁ。


「ほう、私達のメリットは?」


「王宮に戻れた暁には謝礼を出そう、それとは別に賠償も最大限しよう。それに私は腐ってもA級だ、戦力にはなる、それでどうだ?」


「つまり実質貴方の護衛依頼ということ?それならギルドを通してくれないかしら」


「それは駄目なのだ⋯あそこにも関係者が居る恐れがある。Aランクの冒険者が態々自分の護衛のために依頼を出すのは目立つ故な」


「何故私達に?」


「君達がかなりの手練だと感じた。特に昨日の姉君の殺気は私でも粗相しそうなほどだったぞ、ハハハ!」


 何わろてんねん。要するに熱りが冷めるまで俺達のパーティを隠れ蓑にさせてください!ってことだろ。っていうかギルドにスパイがいた場合は既に報告が行っててこんな事してる場合じゃなくなってると思うんだが。うーん、こっちとしてはお偉い様に有利なパイプが出来るのはありがたいんだけど姉二人がどう言うか。


(どうする?ダンジョンは急ぎではないし、ゆっくり攻略しながら様子を見るか?)


(そうね⋯私の肩書だけじゃ何かあった時不安だしね)


(夜に変な事しないようにしてくれればあたしはいいよ)


 ぼしょぼしょと相談をして依頼を受けることが決まった。確かに後ろ盾があるとこういう社会ではかなり有利になる。商売でも周りから邪険にされることもないだろうしな。姉達も意外と乗り気だが俺の貞操だけは守っていただきたい。女性と同衾はバッチコイだが変態に奪われるのはゴメンだ。


「分かりました、その依頼受けましょう。ただしアリスちゃんにお手つきしたらその場で依頼は破棄します」


「相分かった。では双剣士エレノア、命を預けよう。よろしく頼む」


 テッテレー!変態土下座王族女剣士が仲間になった!まぁ前衛一人後衛一人お荷物一人じゃ不安な陣形だったしな、クリーナーがこっちに来ないなら不満はないよ。問題はこいつの喋り方と髪なんだけど今からどうにかなるか?後で聞いてみるか。

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