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閑話 とある冒険者の手記

今回は入れ違いで村に来た冒険者のお話

 十月二十二日


 今回は俺達【朱色の夜明け】に依頼された久々の大口依頼だ。つっても何の変哲もない田舎に行って、その周囲の探索と住人の生存確認をしてこいってマジでつまんねぇ仕事なんだがな。最近はダンジョンアタックも失敗続きで資金繰りが危うくなりつつあり、装備の調整や消耗品の調達も厳しいから外でのクエストをやらざるを得ないってのが本当の所だ。


 ただそれだけの依頼なのに態々貴族の邸宅にまで招かれて、後払いではあるが結構な額を提示された。行って帰ってくるだけの簡単な仕事ならいいんだが、メンバーの一人である火魔法使いのアイリーンには「何やらきな臭いから情報収集はしておいたほうがいい」と言われた。


 どうせ税の上納が滞ってるとかで少しばかし脅しをかけてこいってことなんだろうが、俺はリーダーで全員の命を預かる立場であるからしてその意見を受け入れ、数日は件のガレラ村の噂を集めることにした。



 十月二十四日


 なんてことだ。偶然デノンベルジュに来ていた元村民の話を鵜呑みにするならば、とんでもない化け物の縄張りになっていて近い内に村自体が滅ぶ可能性が高いということが判明した。畜生、あのクソ貴族め。俺達を捨て駒にして、帰ってくるならば脅威は既に無しと判断する腹積もりだな。


 依頼内容に周囲の探索なんて一文があるのがいい証拠だ。過去にも同じような依頼を他のパーティにも出していたんだろうが、そんな話は俺は聞いたことがない。つまり、生還は絶望的ってことか⋯。


 しかし一度受けた依頼を、しかも貴族なんて立場からのものを蹴ってしまうとこれからの生活に関わる。場合によっちゃ不敬罪やらなんやらでしょっぴかれて死の森へ強制連行されてしまうかもしれない。ガキの頃に親父から聞かされてあそこにだけは行きたくないから冒険者になったってのに。クソ!クソ!クソが!



 十月二十五日


 仲間達にもしものことがあったら村を見捨ててすぐに逃げるということを念押しして俺達は目的地に旅立った。ここから噂の村までは数日かかるが、やはり人通りがまったくない。普通ならどんな街道でも行商人くらいは何度かすれ違うのだが、滅びゆく土地には誰も行きたがらないのだろうか。俺達の足取りも重くなってきた。



 十月二十八日


 やっとの思いでガレラ村に到着した。しかし聞いていた話とは違い全体に活気が溢れ、村の中央では大型の獣の解体が行われている。それを主導しているのは若さが漲る金髪の青年だ。年齢には見合わない熟練の手つきで獲物を捌いているが、この周辺は死んでいる土地ではなかったのか?そもそも若者が居るという話は聞いていない。


 村長の家に案内され話を聞いて驚いた。なんとつい先日、ここら一帯を脅かしていた怪物が退治されたというのだ。話をしていた長の顔はどこまでも晴れやかで、これからの明るい未来が待ち遠しいと言った具合が見て取れた。まぁ、本来は口減らしも考える必要がある老人達の命と引換えに手に入った平和だから思うところはあるが。


 獣の解体をしていたレオナルド青年が言うには、自分達は安全になったここへ移住の打診が来たので妻と一緒にやってきたということらしい。他の若い衆も同じような話をしていた。それならば先に領主へ話を通して貰いたいものだ。俺達は危険を冒すこと無く報酬がもらえるので別にいいんだがな。



 十月三十日


 パーティメンバーと分かれて個別に村の情報を集めていると気になることがあった。連中、幼女姿の木彫りの女神像を崇めているらしい。この村の窮地を救ってもらったんだとか言っているが、土着信仰だろうか。とても可愛らしい出来で家に一個は欲しいと思える造形だったが、ヤケにリアルで実際に見て作ったように感じた。



 十一月一日


 ここの食事は素晴らしい。特産の「きむち」という野菜の辛い塩漬けは見た目に反してとても食べやすく、滋味にあふれる味がする。最近出回り始めた焼肉のタレをかけ回した鹿肉などと一緒に食べるとたまらない。


 しかし一番うまいのは何と言っても初めて食べた米である。普段これを食べるやつはまともな稼ぎなど無い食い詰めものだと散々馬鹿にしたものだが、キチンと下処理を行えばここまで味が変わるものなのか。これは調理法を学んでデノンベルジュに帰っても食えるようにするべきだな。尤も調理担当は俺ではないので仲間に丸投げするのだが。



 十一月二日


 村から近い山に入って驚いた。これが、村が近々滅ぶとまで言われていた化け物の根城だと?一歩踏み込むだけで青々と繁る自然が歓迎してくれている気がする。見かける獣はよく肥え太り、奥にはその餌の果実や野草の宝庫がたんまりと広がっているじゃないか。少々数が多い気がするがこの村には若者が多いのだ、平気な顔をして間引きして冬の間の備蓄に変えてしまうだろう。



 十一月四日


 村人の一人に幼女神様を信仰してみないかと言われた。俺は今まで神になんぞ祈ったことはないが、この村に敵意はないと示すために渋々受け入れた。何でも色々なご利益があるらしく、最たるものが無病息災、健康長寿なのだそうだ。ホントかよ?だとしたら俺の傷めた足も女神様の御威光で治るかもしれないな。



 十一月五日


 嘘だろ、本当に治ってる⋯。いや、偶然治る時期が一致しただけかも知れない。仲間の一人であるフェルディナンドは既に取り込まれている。常に雑嚢に幼女神の彫像を忍ばせ、食前食後のお祈りをかかさないまでになっていた。



 十一月十日


 今までアプローチはしていたが袖にされていたアイリーンと遂に一線を越えることが出来た。幼女神様の信仰を始めていた彼女に、俺も像を渡されたと打ち明けたら一夜にして仲が進展したのだ。これもご利益だってのか?だとしたら俺も心を入れ替えて見るとするか。



 十一月二十八日


 この村に来て一ヶ月が過ぎた。今まで一緒に冒険をしていた仲間達はすっかり村に溶け込み、汗を流して日々を謳歌している。俺もそうだ。アイリーンの腹に俺の子が居ると分かってここに腰を落ち着ける事に決めた。


 特に問題はなかったと領主に報告をした時の報酬はたんまり残っているし、ここの住人達は気のいい奴ばかりだ。友人のレオナルドは凄まじい剣の腕で俺では手も足も出ないが、彼程の達人が居るならばこの先何が起こってもこの村は安泰だろう。


 それにしても幼女神様だ。謎の存在だが、この神様のおかげで全部が良い方向に変わったように思う。いつ死ぬかもわからない冒険の日々。所帯も持てない日銭稼ぎの毎日。そんなクソッタレな循環から抜け出して、俺はこの村で生を実感できている。



 ?月?日


 今日も朝早く起きて幼女神様の神像に祈る。


 毎日の糧に感謝して、飯を食べ、夜眠る。


 そんないつも通りに俺は満足している。

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