第30話 奪っちゃった
「んぅー」
頭が痛い、そして喉も乾いた。そんな不快感の中、見覚えがあるいつもの宿屋で目が覚めたんだが、昨日何してたんだっけ?⋯ああそうだ、帰ってきたんだった。だが王都に入って、ギルドで俺吸いされてからの記憶がない。なんかあったのか?
「目が覚めたか」
!?何回か聞いたことがあるフレーズだな。これが飛んでくる時は大体やらかしが多いんだ。急いで腰周りを確認するが、濡れてたりすることはないな。ヨシ!
「おはようお姉ちゃん⋯頭いたぁい」
俺はガラガラの声で返事をする。なんでこんなに喉がガサついているのか分からん。最近冷え込んできたし風邪でもひいたか?この世界で病気をすると高い金を払って教会で治療をしてもらうか、知り合いの水魔法使いに治してもらうしか無い。今はティナがチート始めましたしてるから問題はないな。
「昨日の事はなにか覚えてるか?」
「昨日⋯何かあったっけ?あ、ご飯食べてないや⋯お腹すいた」
「覚えてないみたいねー。全く、心配かけさせて。低級治癒」
姉二人は若干呆れた様子で話しかけてくるがマジで何も覚えてねえ。記憶が飛ぶくらいのなんかが起きたのか?もしや事故で怪我でもしてしまったのか?普段から危ないことはするなとキツく言われてるから恐らく巻き込まれたんだろう、覚えてないからどうとも言えないが。
「あー⋯あー、ありがとうティナお姉ちゃん。治ったよ」
喉の不調と頭痛が消え去り、姉にお礼を言う。昨日は事件が起きたのでギルドでの用事を途中で切り上げてここに来たらしい。何のことだか分からんが、取り敢えず今日もギルドに行ってなんかするらしい。朝飯のスープとパンを食って宿を出てからギルドに向かったが、昨日は入口をくぐった辺りまでしか記憶にないな。
中に入ってからまず目に付いたのは、酒場スペースを囲うように貼られたロープに改修中と書かれた看板がぶら下がっていたことだった。奥の方は壁がぶち抜かれていたり、所々床が抜けて何かが暴れたような痕跡が見受けられる。他の冒険者は気にしてないみたいだけど、殆どの人が顔に青痣を作ってて見た目がかなり痛々しいな。
「ティナお姉ちゃん、あの人達怪我してるよ⋯?」
「いいのよ」
「え、でも⋯治してあげないの?」
「いいのよ」
押し切られた。何があったのだろうか⋯。私、気になります!
「おはようございます!昨日はその⋯大変でしたね」
「おはよう。こいつは覚えてないみたいだから余計なこと言うなよ」
「分かりました。アリスちゃん、体は大丈夫?」
「おはようございます⋯?さっき治してもらったけど、あたしは元気だよ?」
「そっか。なら、これをどうぞ!」
そう言ってニナさんは俺の目の前に水晶玉を差し出してきた。これ犯罪者判定するやつじゃないのか?もしやあの破壊痕は俺に関係があるのかもしれない。いや、姉二人ならまだしも俺にあんな事ができるか!言っちゃあなんだが食器位しか重いものが持てない可愛い幼女だぞこちとら。最近鍛えてるけどちょっと痩せたくらいだしな。
「これは魔力の測定装置だ、今日はアリスの冒険者登録をしに来たんだよ。今までは外のクエストを受けて同行してるだけだったから特に問題は無かったんだけどね、ダンジョンはそうも行かないらしい。最低でも魔物の撃破記録が必要なんだってさ」
おーついに俺も冒険者か。ティナみたいに幼い頃から妖精がついてくれる人は、こうやって身分証とか手に入れたりして日銭を稼いでるんだろ?異世界テンプレとしてはありきたりだけど、薬草摘みとか街の清掃からやんなくていいのは面倒がなくていいな。
「これに触ればいいの?」
「そうよ~、妖精がいて魔力がありますよって証明するだけだからね~」
俺の場合はどうなるんだろうか⋯魔力は問題ないけど自分自身が妖精だしなぁ⋯まぁやってみるしかないか。それ、ぺたっとな。俺は掌を水晶に当てたが特に反応がない。壊してしまったのか思ってオロオロしながら周りを見るが、姉達は当然といった風でニナさんは少し慌てている。
「子供用の測定機じゃ測れませんでしたね⋯もしかしてアリスちゃんはすごい魔法使いの才能が!?」
「あーまぁあるかもしれないな。アリスだし」
「そうねぇアリスちゃんだしねぇ」
「なに?あたしってすごいの?」
今使った水晶は魔力が弱い子供でも反応しやすい様になっている物らしい。その代わり大きい魔力は測れず壊れないように強制シャットダウンされるとかそんな仕様だとかと後で聞いた。
「それじゃあ改めてこちらにお願いします」
「その前にだな、これからどうなるか大体分かるからちょっとあっちの個室に行こうか」
「あ、見られちゃうと恥ずかしいってやつですか~?たまにいるんですよね!自分の情報を周りに見られたまるか!ってちょっと変わってる人」
「そんな感じね。女の子だし個人情報は守りたいじゃな~い?」
俺達は防音性能が高めの部屋に案内されて、改めて水晶を触った。とてつもない光⋯とかはないな。水晶玉が砕けたりもしてない。ただぼんやりと『S』という文字だけが浮かび上がってるけど、これって俺の魔力のことだよな、たぶん。
「え、S判定?人間の魔力ってAまでじゃ⋯」
「これがアリスのステータスボードだ」
そう言って姉が俺の個人情報を晒した。そういう事やるなら事前に言ってくれませんかねぇ!?身内にベラベラと日頃の行いを暴露されるみたいなもんじゃね?よく覚えてないけどさ!ちょっと恥ずかしい。
「妖精⋯?神⋯?技能がすごく多いし軒並みLv5って⋯」
「これはギルドマスターしか知らないことだからな、ニナは世話になってるし何かあった時に味方は多いほうがいいと思ってね。あぁ、こいつの契約者は私だから」
「お姉ちゃん勝手に教えないでよぉ⋯い、いままで黙っててごめんね?」
ニナさんはいつか見た姉みたいにステータスボードと俺を交互に見ながらぷるぷるしている。急に叫びだしたりしないだろうな?ちょっと消音の結界でも貼っておくか。
「んぎゃわいいいいい!どうりでセンサービンビンなはずだわ!時期的に連れてきた時はまだ契約してなかったんですよね!?あの時本当に貰っておけばよかったあああ!!」
「うぶぶぶ」
急に飛びついて頬ずりしてきた!一体何がそこまで琴線に触れたのか分からんが一旦落ち着け、せっかくセットしてもらった御髪がぐしゃぐしゃになるから!困惑していると姉達が二人がかりで引き剥がしてくれた。すまんな、この体では抵抗すら出来ない。
「ニナは強い奴と可愛い子供が大好きなんだよ。付き合ってるのもAランクの女冒険者だったか?」
「付き合うだなんてそんな、エレノアさんは陰ながら応援してるだけですよ」
「それよりステータスボードそのまま載せるわけには行かないでしょ~?ちょこっと偽装お願いね~」
「あ、そうですね⋯妖精なんて書くわけにはいきませんもんね⋯」
ニナさんを宥めながら待つこと数分、ついに俺のギルドプレートが出来上がった!テッテレー!これで俺も夢だった無駄にガシャガシャが出来るってもんだぜ!でもそのためには何かしら倒さないといけないんだよな。あれ?倒すってまさか。
「じゃあ行こうか、これからゴブリン退治だ。ほら、武器」
俺でも持てるくらいの小振りなナイフを渡された。ですよねー、撃破記録ってことは俺がトドメ刺さないといけないやつですよねー。
「むむむむむ無理だよ!あたし子供だよ!?かよわいんだよ!?」
「自分で言うな自分で。誰だって最初はそんなもんさ、私達がサポートするから大丈夫だよ」
「嫌だぁぁぁぁぁ誰か助けてーー!」
そうして俺は見覚えがあるゴブリンの巣に連行されていってしまった⋯。こいつらいっつも同じような場所に同じような巣穴作ってんだよな、学習能力とかないっぽいし若干システムじみた行動だ。怯えながら姉二人の後ろを進んで遂に最深部の小部屋くらいある空間にたどり着いたが、あっという間に一匹を残して殲滅されていた。残った一匹は手足が吹き飛ばされて達磨状態でうごうごしてるが⋯まさかこれを俺にやれっていうのか?
「頭と体は私達が抑えてるから、心臓にドスッとするだけでいいよ」
「あんまり触りたくないからちゃちゃっとね~」
「ひぃぃぃ」
そういえばこの世界で生き物の命を奪ったこと無いな⋯虫すら殺した覚えがない。そんな俺に人間の子供サイズはある魔物を殺せだって?普通の人だったらトラウマにならんか?いや俺でもなりそうだけど。
「しょうがねえなー、これでどうだ?後は力を入れるだけだから」
姉はそう言って俺が持ってるナイフの切っ先をゴブリンの急所である心臓がある位置にあてがい1cmほど埋める。痛みで筋肉が硬直して、必死に命を守ろうとしているのが分かる。こんなのでも生きてるんだ⋯それをこれから奪うんだ⋯ゲロ吐きそう。いや、吐く。思い切ってやるか?これ以上はこいつも苦しいだろうしそれが慈悲だろうか。
「ギェェェェ#%$@”&!!!」
ずぷり、と手に嫌な感触が伝わる。沈めた刃からは少しずつ小さくなる心臓の鼓動が伝わり、同時にビクビクと痙攣するゴブリンが目に入る。や、やっちゃった⋯俺が、殺した⋯。そのうちゴブリンは動かなくなって、出てきた魔素が俺の体に吸収される。
「うぐっ、おえぇぇえ」
「大丈夫アリスちゃん!怖くないのよ、生きるっていうのは命を奪うことなのよ」
「魔素が体に入っても発熱はしてないみたいだな」
これ、あかんやつ。魔素がどうのって言うより精神的ダメージがヤバい。前世でも銃を使って獣の命を奪う事はあっても、ナイフなんかで死ぬまで突き刺すなんて、犯罪か戦争くらいしかないだろ。こんなん確実にトラウマになるってー!チート転生者はよくズバズバぶっ殺せるな!
その後のことはよく覚えてない。翌日に聞いたことだが、無事に撃破記録として提出が出来たのでダンジョンの入場資格が手に入ったらしい。しばらくゴブリンは見たくない。これから向かうダンジョンには出ないでほしいな⋯⋯。




