第29話 帰ってきちゃった
「確かにここはもう心配ないかもな。元気になったそばから日頃の数十倍働き始めて既に冬を越せるくらいの食料は一日で集まったし」
「レオさんとロジータさんなんか、山で大きいクマを見つけてそのまま狩って帰ってきたくらいだしね~」
そろそろ元いた王都に帰ってダンジョンを攻略しないかと相談してみたんだが、何してんですかねあの美形老人夫婦は。数日前まで死にかけてたって覚えてるか?まぁロジータさんの妖精も俺の雑炊を食っちゃったとは聞いてるので力が有り余ってる状態らしいのだが⋯。
「もうあっちに戻っちゃうの?ママ、悲しいわ⋯およよ⋯⋯」
ウソ泣きはおやめくださいお母様、ここ数日で結構タフな性格してるの知ってるんですよ?
「ダメよママ、あたしもお仕事しないと女神様に何されるかわかんないんだから」
「それじゃあ今日は準備して、明日には出発しましょ~」
そうして今日は過ごすことになった。と言っても俺達が持ってきた食料以上に溜め込まれ始めた保存食などが、余ったからと言って山程うちに届き始めたのでそれを姉二人のボックスに収めるだけなのだが。なんか貢がれてない?変な信仰始まってない?だいじょぶ?
そんな感じで一日は過ぎていき、次の日の朝がやってきた。朝飯を四人で食べていると、急に我が家の玄関のドアから控えめなノックが聞こえてきた。
「はいはいどちらさまですか~。あら村長さんじゃないの、どうしたの?」
母が応対するが、村長の顔色はイマイチ良くない。なにか事件でも起こったのだろうか。今なら若返った村人達と姉二人で対処可能だろうから厄介事なら任せなさい。
「邪魔するよ。実は今朝早くに冒険者の一団がやってきて、村を探り始めた。領主の依頼で様子を見に来たらしい。一応打ち合わせ通りに話をでっち上げてはいるが、ここにも来るかも知れない。姿を見られて報告が行っても不味い、早めに隠れて出発したほうが良い」
「偶然調査に来たのかしらね、悪いけど裏口から出て行くから時間を稼いでもらえる?」
「ああ、分かった。お前達、今回は本当に助かった。次に帰って来るまでもっとマシな状況にしておくから、無事でいるんだよ」
「うん、ありがとう村長さん。またね」
「しばらく雪で来れなくなるから次は来年になるな、そっちも元気で」
そうして俺達は逃げるようにしてガレラ村から出ていった。今回は状態異常を癒やすポーションを事前に服用して、全力で走ってなるべく早く村から遠ざかる。次にこの村を見るのは来年か⋯一応時間の流れは地球と同じだから早くても4ヶ月くらいは先かね?まぁダンジョンを巡ろうと思ったらかなり遠くまで行かなきゃならないからもっと先まで伸びることもあるだろうが。
途中で休憩しつつその日の内に交易都市デノンベルジュまでたどり着き、多少の補給をしてからそのまま俺達がホームにしていた王都グランディールへ向かった。今までは俺の体調を考えてジョギング程度(それでも時速数十km)で走っていたが、フルスロットルだとヤベーな⋯ティナもついてこれる様になったおかげで舗装された道ならかなりの速度が出てる。周りの景色がビュンビュン過ぎていくけど最早目で追えないくらいだ。これダンジョンも余裕で突破できるんじゃね?
途中で立ち寄った野営地で夜を明かし、また必死に姉の背中にしがみついてポーションの容器を口に咥えながら考えていると、ついに見慣れた街の光景が目に入った。ああ懐かしい。実際には数週間も離れてないんだけど、生まれ直してから過ごしたのはここが一番長いのだ。ガレラ村も良かったけど、実際に故郷はどこかと言われるとたぶんここだろう。
クソデカい門で身分証明をして中に入る。なんかあちらこちらから俺が作ったタレの匂いがするけど気のせいだろう、うん。そこらの店先に並んでる食品の横に見覚えがある瓶もあるけどきっと偶然さ。取り敢えず今日はギルドに帰還の報告をしてから口止めとか含めてギルドマスターさんとお話しなきゃだな。
「おいーっす、ここも久しぶりだなぁ」
「クリスさん、ティナさん、アリスちゃん!お久しぶりです!」
「ど~も~久しぶり~」
「こんにちは、ニナお姉ちゃん!」
「いや~ん相変わらずかわいい!皆さんが居なくなってから寂しかったんですよぉ~、ここはむっさ⋯厳つい男の人しかいなくて」
そう言えば、ほぼ毎日顔を出してたからな。周りの冒険者達もこっちを見ながら声をかけてきてくれてるし、俺達がどれだけ馴染んでいたかがよく分かる。帰れる所があるのって嬉しいな。そう思うと姉達の故郷を守れたのも誇りに感じる。これからも自分のできることであれば、人の助けになるのもやぶさかではないな。
「アリス、私達はギルドマスターと話があるからここでニナに面倒見て貰っててくれ」
「ちょっと時間がかかるかも知れないから、これでも食べさせてあげてね~」
お菓子や間食が入った俺専用の巾着を出してから二人は二階に上がっていってしまった。どれくらい時間がかかるのか聞いてなかったな、まぁここなら全員顔見知りで安全だし、長くなると俺が暇そうにするので置いていったんだろうな。
「はー、久々のアリスちゃん成分が⋯体に染み渡る⋯⋯」
「何日かお風呂入れてないから汗臭いかもだよ⋯」
カウンターの奥にある椅子の上で、抱き上げられながら頭を吸われてじっとしているんだけど、扱いが猫のそれなんだが?ここに来ると割と、高頻度でニナさんにこういった行為をされるのでもう慣れたってのはあるが、魔法で綺麗になるとは言えシャンプーの香りがしない頭皮を直に行かれるのは流石にやめて欲しくなる。早く帰ってきてくれお姉ちゃんズ!
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私とティナは二階に上がってから、ガレラ村での顛末をギルドマスターに報告している。
「ほぼ単独での第三種災害生物の撃破か⋯。これが知れ渡ると英雄だが、それと同時にお前らの取り込みが始まるだろうな」
「ああ、アリスの使命があるからそれは御免被りたい」
「それと、最高ランクの回復魔法の完全習得、だったか?クリスはともかくティナまで、一体何があったんだ⋯」
「それはちょっと秘密ね~。こっちはギルドマスターまで知っちゃうと命が危うくなるかも知れないし」
「やめてくれ、頼まれても聞かんし知りたくもない。俺には大切な家族が居るんだ、これ以上危険な話をしないでくれ。⋯ん?何の騒ぎだ」
私と相棒⋯今や妹は少し脅すような口調でお話し合いをしている。すると、下の階がやたらと騒がしくなっているのに気がついた。誰か負傷でもして帰ってきたのか?流石に生命復元は使えないけど強化されたヒールなら内臓の損傷くらいまでなら治せるはずだ。ちょっと様子を見に行くかね。私達は一旦切り上げて皆が集まっている下の階に降りてみた。
「何の騒ぎだお前達!上まで聞こえてるぞ!」
ギルドマスターが腹に響くような声量で怒鳴る。この人怒らせるとマジで怖いからなー、私は幸い心配はされても、そういった事はまだ無いから気の良いおっちゃんくらいで接してられるが。思えば若い頃からここで下積みしてたからお互い親近感ってのが築けたのかも知れないね。
「ああっ!マスター助けてくださいよぉ!アリスちゃんがぁ!」
「何!?あの子になにかあったのか!!」
アリスが原因か!もしや怪我でもしたのか!?あっちのテーブルに人集りが出来てるが、そこにいるのか!しかし騒ぎ方が嫌に陽気というか、笑い声の方が多いというか⋯。
「うぇー!だからぁ、あたしは言ってやったんだよぉ!ひっく、お前の血は何色だ!!ってねぇー!」
「がーっはっはっは!そりゃあいいや!もっと飲め飲め!今日は俺達の奢りだぁー!」
「あーあっつい!アリス、ぬぎます!」
何事かと思って人垣をかき分けてそこに着いてみると、私の可愛い可愛い妹が⋯⋯林檎酒の瓶を片手に肌着姿で真っ赤っ赤になっていた⋯⋯⋯⋯一体何があったんだ。
「アリスちゃんに餌付けしてた人が、間違えて辛いお肉食べさせちゃったんです!それで、慌てて飲んだのがお酒で⋯」
ニナが震えながらそう教えてくれる。今の私はそんなに怖い顔をしているのだろうか?余りの光景に手で顔を覆いながら上を向いていると、他の酔っ払った奴に絡まれる。
「おぉ、帰って来てたのかぁクリスちゃんよぉ!今日はいい日だ、お前も飲めよぉ!妹が飲んでるんだし嫌とは言わぶべらぁ!」
思わず手が出た。ああ、もういいや。とりあえずアリスの肌を見た奴ら全員ぶん殴って記憶を飛ばしておくか⋯。既に酒が入ってるしいい感じに忘れてくれるだろう、多分。忘れなかったら忘れたくなるまで殴り殺してやる。ティナに目配せすると流石長年の相棒、一瞬で理解してくれて一緒に前に出た。
「行くぞ」
「請求書はこいつらに回しといてね~」




