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第25話 感動しちゃった

ご飯食べるだけで引っ張りすぎですねわかります。

「⋯⋯⋯」


 俺はその光景に言葉を失っていた。転生したこととか、幼女になったこととか、もう全てがどうでもいい。目の前の鍋の中にあるモノ。それこそが、今持っているリソースを全部つぎ込む存在ということが本能で分かる。先程集まって食事をしたばかりなのに、いつの間に消化が終わったのか、腹の音が鳴るのが聴こえる。もう我慢できない。炊き立てでツヤツヤのお米様にフォークを突きたてようとした。


「おっと行儀が悪いぞ?まずは皆の分をよそってからにしよう」


「アリスちゃん、こっちに来て椅子に座りましょうよ~」


 クリスとティナが俺を窘めながら席に着くよう誘導してくる。しょうがないな、諸君らにもこの素晴らしい光景を拝む権利をあげようじゃないか。最後の理性を振り絞って冷静になり、この感動を分かち合うことにして机へ向かった。


「みて、これ⋯しゅごい⋯尊い⋯推せる⋯」


 目の前の皿に乗せられた米を見て俺の語彙力は融けていた。だってしょうがないじゃないか、タレがかかった焼き肉に、キムチに、米だぜ?そんな光景を見せられて正気が保てる奴なんて居ないね、断言できる。もしそんな奴が居るとしたら口にねじ込みに行くから震えて待て。


「あの米が水分をたっぷり吸うとこんなに膨らむのか、今まで適当にお湯で煮込んだりして粥にしようとしとったが、これが正しい調理法なんじゃな」


 まぁ、精米も洗米も炊飯もせずに、ヌカがたっぷりついた生米のままでお粥にしちゃうと美味しくないと思うよ。米糠には栄養素がかなり多めに含まれていて、精米時に残す度合いによって玄米とかになる。詳しくは思い出せないけど、普段愛されていた米はほぼ白米だったが、健康食として玄米を食べている人がそれなりに居たはずだ。でもそのまま調理は普通しないしな。


「それより早く食べましょう?アリスちゃんの口からヨダレが滝のように⋯。お腹もさっきからずっと鳴ってて、ちょっとお母さん怖いわ」


「そ、そうじゃな。それでは」


「「「「「いただきます」」」」」


 試合開始のゴングが鳴った。俺は真っ先にお預けを食らっていた米に渾身のフォークを打ち込む。手に返ってくる少し粘り気がある、どこまでも優しい聖母のような感触に若干戸惑いながら持ち上げる。あれ?米ってこんなに感情を揺さぶるようなものだったか?いくら久々の、今生初のお米様だとしても流石に魂に響きすぎじゃないか?だって、まだ口に入れてすら無いんだぞ?


 そうだ、俺はこれからこの異常なまでの、暖かさと慈しみを持った米を食べる。そう考えると手が震えてきた。しかしいつまでもそうはしていられない。放置すると米は乾燥して一番美味しい時間を逃してしまうのだ。意を決して震える手を抑え込み、口に運ぶ。


 その瞬間、時が止まった。なんだこれは。美味い―――を通り越して、脳に快感が直接叩き込まれるような錯覚を覚える。いや、これは錯覚ではない。咀嚼して胃に送り込む度に、体が喜びに打ち震えるのが分かる。手が、口が、涙が止まらない。一口、また一口と米を運ぶと、脳がバチバチと何かを分泌しているようだ。


「えぇ⋯なんか、泣きながら食ってんだけどこいつ。怖っ」


「確かに元のお米と比べるとすごく食べやすくて美味しいし、味が濃い物と相性抜群だけど⋯どうしたのかしら」


「クリス、ティナちゃん、今までこんなことはなかったの?」


「はい。私達と一緒にご飯を食べてましたけど、いつもニコニコしてるだけで泣いたりなんかは⋯っていうかまた魅了が発動してないわね」


「この米は確かに美味い。だが、それだけじゃないようじゃの。かなりの量の魔力が含まれているようじゃ。皆、見てみなさい」


「本当だ⋯米の一粒一粒が尋常じゃない力を持ってる。レオさん、この米が特別なのか?」


「いや、これはダンジョンで出る普通の米じゃ。まだ袋に残っているのを見れば、おかしなところは無いと分かるじゃろう」


「確かにな⋯。今まで食おうとした時も、こんなことにはなってなかったんだよな?それじゃあ、問題はアリスの調理方法か、アリス自身が調理したからか?」


「恐らくそれね。私が出した水にアリスちゃんの魔力が流れてしまったのかもしれない。って、え!?ちょっと、どうしたの!?」


 その声に我に返る。気付けば目の前の米は既に8割くらいが平らげられており、開始1ラウンド数秒にしてKO負けを喫していたようだ。そして、無意識に食事をしていた自分を恥じた。漫然と口に物を運ぶなとは誰のセリフだったか、身にしみるぜ。って、何だ?


「んー?ティナの妖精さんもお腹空いたのかな?」


 机の上を見ると、ティナの連れている青い妖精の女の子が、俺の炊いた米をむしゃむしゃ食べていた。


「どういうことなの⋯妖精が物を食べるなんて、ありえない⋯」


「何が起こってるんだ?米が空中で消えていってるぞ!?」


「儂の妖精も食べ始めたぞ!なんじゃこれは!」


「あらあらかわいいわね」


 どうやら他の妖精も食事を始めたようだ。一同が固まってその様子を見ているが、俺という妖精が毎日飯食ってんだし今更じゃないか?え?ただの幼女にしか見えない?それはそう。俺だってたまに自分が人外だって忘れる。


「美味しそうに食べてるねぇ、いっしんふらんに頬張ってるけど、どこにそんなに入るんだろう」


「多分お米自体じゃなくて、含まれている魔力を吸収してるんだわ。ということは⋯これは、お米を食べた分だけ、妖精の⋯私達の魔力が上がっている!?」


「なんと!そんなことがあるのか!?」


「皆して楽しそうだなぁ、私は蚊帳の外みたいでちょっとつまんないね」


「もっと食べる?うふふふ」


 我が姉は他の人みたいに面白い光景を見れずに黙々と肉を食っている。まぁクリスの妖精って俺だしな?普段から見てるんだから我慢してくれ。あとお母さんはかなりマイペースで自分の妖精に次々と食べ物を与えている。一応肉も食えるのか⋯。(困惑)


 つーか魔力が上がる?マジか、もしやこれは異世界定番のバフ飯ってやつか。なんか、そういう技能持った人が作ったご飯はやたら美味しい上に強くなれるとかそういう定番のやつ。


 でもその効果は俺とクリスには出てないぞ?米がやたら美味しく感じるだけで別に強くなった感じはない。適当に炊いただけで前世でプロ並みの手腕とか持ってたわけじゃないしな、あんまり記憶にはないけど。


「私の妖精が食べ終わったけど、この魔力量は今のクリスと同じくらいみたいね。以前の3倍くらいはあるわ。これなら⋯」


「ワシも昔のように活力が漲っている気がするぞ」


「私もお米のおかげで肌に若さが戻ってきたわ!」


 最後は気のせいです。お米は直ちにそんな影響はございませんよお母さん。確かに健康には良いかも知れないがな。


「レオさん、ちょっといい?今からおばあちゃんに回復魔法をかけるわ。習得はしているけど魔力が低くてあんまり使えなかった奴だけどね」


「それはもちろん構わんが⋯余り無理はするんじゃないぞ」


「大丈夫。これだけの力があるならきっと成功するわ」


 一体どんな回復魔法を使うんだろうか。オラ、ワクワクしてきたぞ!などと思いながら残ったご飯を肉肉、キムチ、肉肉、キムチのローテーションで食べながら見ているのであった。

評価ありがとうございます。やる気に繋がります。

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