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第24話 炊いちゃった

 うおっうおおおおお!!米!米!!この世に存在しているという確かな情報を聞いて俺は冷静さを失っていた。どの品種か分からんが、もう硬いパン片手に肉とスープで腹を満たす毎日がこれで終わる!


 とりあえずあれだろ!?日本産の楕円形のやつ以外だと炊くんじゃなくて煮込んでお湯を捨てるんだってどっかで見た覚えがある!相当おかしな調理方法じゃなければなんとか食えるだろ!


「お米!どこにあるの!?どんな見た目なの!?いくらするの!?どうやって食べたの!?ねぇねぇねぇ!」


「おおおお落ち着けよ!どうしたんだ一体」


 机に手をついて椅子の上に立ち、身を乗り出しながらガッタンガッタン揺らして必死に聞いてみる。


「な、なんじゃ?そんなに米が欲しかったのか?しかしあれはのう⋯」


「あれはって何!?なにか問題あるの!?教えてよ!!!」


「お行儀が悪いわ。一旦座らないと皆驚いてるわよ~」


「本当に聞いた通り食べ物の話だと必死になるのね、子供らしくてかわいいわ」


 あー、コホン。ちょっと取り乱しました。我に返って皆を見ると、親戚の子供の粗相を見たような生暖かい目で全員に見つめられていて、かなり恥ずかしくなった。


 そうだな、捲し立てても話は進まない。一旦水でも飲んでクールダウンして聞き直してみようか。俺は姿勢を戻してコップを口につけて一息ついた。


「ふぅ⋯すいませんでした。自分を見失いました」


「それでなんで米なんか欲しがったんだ?さっきも言ってたけど本当に家畜に食わせるくらいしか利用されてないんだぞ?」


「⋯おいしいの。⋯⋯甘くて、いい香りがして、いろんなお料理に合って、幸せなの⋯」


「あの米がそんなにかい?ふむ⋯家の納屋に一袋くらいあったはずじゃ、それを譲ってあげよう」


 レオさんマジ天使。粉末出汁作ってくれるし米もあるとか俺の中での株が急上昇中。


「えっ!?お米持ってるの!?すごい!!ティナ、お金!お金払って!金貨で足りるかなぁ⋯!」


「お米なんて一袋買ってもそんなにしないわよ。安すぎて相場なんて無いから農家の人に押し付けるみたいに処分するくらいよ」


「そうよね。ここらでもあんまり食べるものがなかったけど、お米は多少あったからそれを鶏や牛、豚に与えてたからなんとか耐えれてたわ」


 なるほど、そう言えば実家(仮)の裏にも多少家畜がいる。逆に安すぎて家畜の餌にしても懐が傷まない値段なのか。それでもいくらか値は付くだろう、まだまだ物資もお金も必要なこの村に余り負担は強いたくない。


「でも、お金はお金だよ。これからいっぱい人が帰って来たらおうちとか建てるのにいっぱいいるんでしょ?」


「本当に気にしなくてもええんじゃよ。都会に行った連中の中には、元々村が退屈で嫌気が差していたのもそれなりにおる。帰ってきても半分程度じゃろう。空き家が多くなっておるからそっちに住ませればええんじゃ。じゃから、代金はこの作ってくれた料理程度で十分じゃ」


 おおう⋯本当に良いのか?俺はソワソワしながら皆を見てみるが、全員笑って頷いてくれている。


「ありがとう、レオおじいちゃん!」


 俺は精一杯の感謝の気持ちとして、トテトテ近寄って思いっきり抱きついた。


「おお、ほんにめんこいのう⋯婆さんの若い頃を思い出すな。それじゃあワシは一旦家に帰るよ。お前さん達はどうする?」


「私達も行くよ。久々にロジータ婆さんの顔も見たいしな。まだ元気かい?」


「⋯そうじゃな。あいつもお前さんらが来てくれたら喜ぶよ」


「デノンベルジュで買ったお婆ちゃんの大好物のお魚も冷やして持ってきてるのよ」


 そんな話をしながら俺達は家を出た。小さい村なので、数件先に歩くとすぐにレオさんの家に着いた。途中レオさんとお母さんの顔を見ると伏し目がちだったけどどうしたんだろうか。


「米を取ってくるから先に中に入って顔を見てやってくれ」


「ええ⋯行きましょうか」


 レオさんとお母さんが幾分トーンが落ちた声で話す。脅威は去ったんだしこれからは明るい未来が待ってるのに一体何故?先導されて俺達三人はお婆さんが居る部屋の前に来た。


「ここよ。ロジータさん、来たわよ」


 お母さんがノックをしてから中に入るが、全く応答がない。まだ寝てるんだろうか?もうすぐ夕方だしあんまり長いことお邪魔するのも悪いから寝顔だけ見たら帰ろうか。


「顔だけでも見てあげて。たぶん、そう長くないから⋯」


「え⋯?」


 そう言われて布団の中に居るロジータお婆さんの顔を見ると、ひどく痩けていて眼窩が浮き彫りになっていた。顔色も悪く、端から出ている手もほとんど皮と骨しかない。


「⋯いつからなんだ、この状態」


「あなた達が村を出てすぐ倒れて、寝たきりになったの。最近までは意識もあったんだけど、栄養不足なのかしらね、一週間前から昏睡状態が続いてるわ」


「それだけじゃない⋯これは寿命みたいね。長年の無理が祟ったのか、体中が傷んでボロボロだわ」


 ティナがヒールをかけながら体の状態を見る。軽い骨折くらいなら治してしまうティナでも、もうどうしようもないみたいだ。俺達が沈黙していると、後ろからレオさんに声をかけられた。


「今日はありがとうよ、儂らのような老い先短い老人にかまってくれて。こいつも嬉しいはずじゃ」


 レオさんは少し悲しそうに笑いながら、大きめの茶色い袋をクリスに差し出してくれた。


「ほら、これがそうじゃ。この米をどうすれば美味しく食べられるのか教えてくれんか?もしかすると、皆が食うに困らんくらいにはなるしの」


「あっ⋯うん、わかった。台所借りていい?」


「もちろんじゃ、頼んだぞ」


 悲しんでばかりはいられない。人間、何があっても腹は減るのだ。残された者達だけでも生きていくために食わねばならない。俺がちゃんと米を炊けるかにかかっているのだ。まずは米の状態からだな⋯。


 これは⋯⋯脱穀はされているが精米されていないのか?ヤケに粒が茶色いような⋯。だが、俺が思っていた通りの普通のジャポニカ米のようだ。これならば瓶と棒さえあればなんとかなる。


「みんな、細長い瓶みたいな入れ物にお米を入れて、それを口と同じくらいの木の棒で突いて。白くなってきたらいいよ」


「酒が入っとったのでもええかの?」


「うん!むしろそれがいい!」


 全員でゴシャゴシャと米を精米していく。さすがは異世界人のパワーなのか俺以外の全員が5分くらいで終わったらしい。自分のノルマは腕がしんどすぎてロクに達成できなかった。だが、「まだ続きがあるんだろ?」と姉に手伝ってもらい、なんとか全員分が用意できた。


「えーっと次⋯たしか、一合が確か150グラム⋯グラム?どうやって計ろう⋯計量器なんて持ってないし、見たこと無い⋯」


「いつも使ってるコップが300ミリリットル入るわよ~」


「ありがとう!じゃあ二回入れて四合分でいいか」


 借りた鍋に水を出してもらい、慎重に米を研いでいく。一回目の洗米で大量の研ぎ汁が出て、二回目が終わるとそこにはピカピカの真っ白い米が顔を出した。


「お米⋯お米だ⋯」


 俺は感動した。いつも求めていた米。それがあと少しで食べられるのだ。そう思うと涙ぐんできたが、泣いてはいけない。皆さんのお目々がぐるぐるしてしまうからだ。


「本当はこの状態で30分くらい置いて浸水させるのがいいんだけど、我慢できないからこのままいきます」


「まだ終わらないんだな。だけど、アリスががんばって作ってくれてるし、きっと美味しいんだろうね」


「さっきより必死になるなんて思わなかった。何がこの子をそこまでさせるのかしらね」


「いつもこんなですよ、アリスちゃんは。いつもおいしいおいしいって、何か作っていっぱい食べてるんです」


 これがいちばん重要な工程だ。水分量を誤るとボソボソゴリゴリのゴミか、おかゆになってしまう。さて、どうしたもんか。確か中指の第一関節までだったか?でも俺の手だと小さすぎて確実にゴミになってしまいそうだ。


「ティナ、手出して」


「手?」


「そう!きれいなお水出して!」


 差し出してきた手を引っ掴んで、そのまま米が入った鍋に突っ込む。水を注ぐついでに計れるなんて便利な手だな。少し多いか、コップで掬って⋯こんなもんか?よしこれでいいだろう。手の持ち主は数日前を思い出してるみたいで、顔を赤くしてるが気が散るのでやめてほしい。


「あとは蓋をして、初めチョロチョロ中パッパ⋯赤子泣いても蓋取るな⋯初めチョロチョロ中パッパ⋯赤子泣いても蓋取るな⋯」


 俺がそうブツブツ言いながら、竈のそばにある火打ち石を手にとって着火しようとすると4人に全力で止められた。離せ!あと少しなんだ!米が駄目になるかならないかなんだ。やってみる価値はありますぜ!!


「よしなさい!危ないぞ!」


「ダメよアリスちゃん。火事になったら大変よ!」


「ん~~!ん”~~~~!!」


「おまっ⋯この、普段ひ弱なくせにこういう時は力が強い⋯っ」


 結局ここから先は料理しなれているお母さんに手伝ってもらうことにした。普段から俺が刃物や危ないものを持とうとすると全力で取り上げられるんだが、過保護すぎんか?幼い頃から料理の手伝いしてると自然と覚えるから教育にいいんだぞ?


「それでさっきの呪文?はたぶん火加減よね、どうすれば良いのか教えて?」


「まずは弱火で温めるの。それで沸騰してきたら、今度は中火でお鍋のポコポコする音が聞こえなくなるまで煮て、完全に音が消えたらお鍋をあげて蒸らすんだけど、ここで蓋を取っちゃダメなの」


「だから赤子泣いても、か⋯よし、私に任せとけ。特定(ロケート)!」


 そ の 手 が あ っ た か ! ! それなら鍋の中まで見られるし、いつ火力を変えれば良いかも手に取るように分かる。やはりこの姉最高だな。俺が音妖精バンシーとして転生したのはこのためだった。


「そろそろ中火だな」


「はーい」


「⋯もう水分が無くなったみたいだ。下ろそう」


「ようやく出来上がりなのね。さっき食べたばかりなのに、いい香りがして少しお腹が空いてきたわ。レオさん、お肉も焼いて良い?」


 ティナが申し訳なさそうに聞いてみている。


「おう、構わんぞ。キムチの残りも一緒に食べようか」


 薄切りの謎肉も焼き上がり、大皿に盛られて配膳されていく。蒸らし時間もそろそろだな、そう思って俺は満を持して米が炊かれていた鍋の蓋を開けるとそこには―――――――白銀の大地が広がっていた。

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